THE STORY
サム・アルトマンの物語
選んだ道。その先で、起きたこと。
01金曜日に消えたCEO
会社が必要としないと告げた人
2023年11月17日、OpenAIはサム・アルトマンの解任を発表した。取締役会は、彼が十分に率直な情報共有をしておらず、監督の責任を果たせなくなったと説明した。ChatGPTの公開から1年もたっていない。各国の首脳へAIの未来を語っていた人物が、自分の会社から外された。[1]
翌週には、その会社を支える社員たちまで、外へ出る可能性が生まれる。アルトマンを止めた取締役会が、今度は組織を保てるかを問われた。彼が集めてきた人と金は、CEOという肩書きをなくしても、彼の周囲に残っていた。[2][3]
最初に彼が集めた仲間は、AIの研究者ではない。友達の居場所を携帯電話で見られるようにしようとした、学生たちだった。そのサービスは、世界的なSNSにはならなかった。1社を巨大にできなかった若者が、どうして、研究者も大企業も動かす側へ回ったのか。話は、米国中西部の家に来たコンピューターから始まる。[4][5]
02サム少年の画面の向こう
サム少年の家に来たコンピューター
地理データ:Natural Earth(パブリックドメイン)。 湖の補助データ:© OpenStreetMap contributors(ODbL)。使用データ。現代の行政区分と都市の代表位置を表示。編集部作図。
1985年4月22日、サミュエル・ハリス・アルトマンはシカゴで生まれた。育ったのは米国中西部・ミズーリ州のセントルイス近郊にある住宅都市クレイトン。母は皮膚科医、父は不動産の仕事に携わり、4人きょうだいの長男だった。[6][7]
8歳の頃、家にコンピューターが来た。彼は後に、それを手にする前と後で、人生に線が引かれたようだったと語った。画面の動きを自分で変えられる。家にいながら遠くの人へ届く。覚えることが、そのまま自分にできることを増やしていった。[8]
通ったのは私立のJohn Burroughs Schoolだった。コンピューターの教師ジョージアン・ケプチャーと、授業前にAIについて話した。2時限目に少し早く来て、これから何が起こるのかを考える。2023年に母校で表彰された彼は、その教師が自分の人生へ与えた大きな影響を振り返っている。20年前に話していたAIが、今では自分の仕事になっていた。[9]
近くでは話せないことを遠くへ話す
サムは同性愛者だった。自分と同じような状況の人へ、身近な場所で簡単に出会えるわけではなかった。インターネットの向こうにつながりができる。家の外で言いにくいことも、理解する相手がいるとわかる。彼にとってコンピューターは、学校の成績や将来の職業に役立つだけの道具ではなかった。[10]
10代でカミングアウトし、学校で性的少数者に関する集まりへの反発が起きた際には、皆の前で話した。自分のことを隠して通り過ぎるより、言葉にして周囲へ働きかけた。後に大きな会議室で未来を語る人物には、それよりずっと小さな場所で、自分の居場所を言葉にした時期がある。[11]
家には機械があり、学校には関心を受け止める教師がいた。ネットには、現実の生活圏だけでは見つからなかった相手がいた。サム少年は、その画面の向こう側へ、さらに深く進んでいく。[9][8][10]
03Goldman Sachsへ行くはずだった夏
就職に向かっていたはずの学生

写真:King of Hearts/出典/CC BY-SA 3.0。表示用にサイズ・圧縮を調整。
2003年、サムは米国西部・カリフォルニア州の、IT企業や研究機関が集まるシリコンバレーにあるStanford Universityへ進んだ。コンピューター科学を学び、AI研究室でも働いた。本人は研究の仕事を気に入っていた。投資銀行Goldman Sachsのインターンも受諾しており、夏に働く先まで決まっていた。[6][12][13]
その一方で、授業の外に続けていたプロジェクトがあった。携帯電話の位置情報を使い、友達が今どこにいるかを地図へ載せる。後のLooptである。パソコンの前に座ってからネットへ入るのではなく、持ち歩く電話を通じて、街の中にいる人同士をつなげようとしていた。[4]
学生向けの事業コンテストでは、投資会社NEAの人物が話を聞き、携帯電話会社Sprintの関係者へ紹介した。教室の中で考えたサービスが、電話のネットワークを持つ相手との話へ進む。事業にできるかもしれないという反応が、大学の外から返ってきた。[7]
別の夏休みを選ぶ
プログラマーで投資家のポール・グレアムは、学生たちへ、夏の間に自分たちのサービスをつくる機会を用意していた。Y Combinator、後にYCと呼ばれる起業家支援組織である。資金を渡し、事業を磨き、投資家へ見せる。まだ、その最初の募集だった。[13][14]
2005年夏、20歳のアルトマンたちは、その最初の参加組に入った。Goldman Sachsの仕事より、自分たちの会社へ進む方を選んだ。グレアムは、年齢に比べて成熟している若者に驚き、後の文章でもその名を挙げた。[13][15]
サムは大学を2年で離れ、ニック・シヴォらとLooptへ取り組んだ。AIの研究室へ通っていた学生が、まず本気でつくることになったのは、友達を地図の上で探すサービスだった。[6][4]
04Appleの舞台まで来たのに
携帯電話の地図に友達を載せる

写真:Phil Glockner from Round Rock, TX, USA/出典/CC BY 2.0。表示用にサイズ・圧縮を調整。
Looptでは、友人が地図の上に現れた。近くにいれば会える。人の位置だけでなく、周囲の場所や出来事も探せる。携帯電話を持ち歩くことと、電話を通じて知り合いに会うことを、1つの画面でつなごうとした。[4]
サービスをつくる側のサムは、働く時間にも強い要求を持った。後に本人が語ったのは、自分が週100時間働くからといって、社員にも同じことを求めるのは公正ではなかった、という反省である。一緒に働きにくい若者だったことを認めている。[13]
自分なら続けられる。その自信があっても、雇った相手には別の生活がある。しかも、授業の後のプロジェクトだったものは、10人ほどの社員と外から集めた金を抱える会社になっていた。この市場で、大きな会社を育てられるのか。彼は、その問いへ立ち戻るべきだったとも振り返った。[13]
世界が見る場所で実演する
2008年6月、アルトマンはAppleの開発者向けイベントWWDCへ出た。iPhoneの新しいアプリを見せる舞台で、Looptを実演する。友人の位置がピンになって地図に載り、写真や文章、コメントも使える。App Storeの開始時には無料で提供する予定だった。[16]
学生の仲間とつくっていたサービスを、Appleの舞台で世界へ見せる。そこまでは来た。電話がどこへ向かうかという見通しも、まるで外れていたわけではない。人々は後に、位置情報を使って車を呼び、店を探し、知人へ現在地を送るようになる。[16][4]
だが、Looptがその中心になったわけではなかった。最初に試してもらうことと、毎日戻ってくる人を増やすこと。アルトマンが後に起業家へ語る、少人数でも強く欲しがるものをつくるという助言は、この時期の経験につながる。会社は、7年間続いた。[17][5]
054340万ドル(約68億円)で閉じた最初の章
買われたのは地図と人だった
2012年3月、金融サービス会社Green DotがLooptを4340万ドル(約68億円)で買収すると発表した。うち約980万ドル(約15億円)は、主要社員を引き留めるための資金だった。買い手が欲しかったのは、モバイルの技術と特許、そして、それをつくるチームだった。[5]
Green Dotは、Looptの拠点をモバイル関連の技術・製品開発に使うと説明した。友達のいる場所を探すためにつくった会社が、別の企業の金融サービスへつながっていく。大学を辞めてから続いた仕事には、そこで出口ができた。[5]
アルトマンは売却で資金と実績を得た。4340万ドル(約68億円)の全額を自分が受け取ったのではないが、次の仕事へ賭けられる立場になった。その後に進んだのは、別のアプリを自分1人で大きくする道だけではなかった。まだ小さな会社へ出資し、その創業者たちと働く方へ広がっていく。[18]
彼が世界的に有名になるのは、後のOpenAIによってである。しかし個人の富の土台は、こうした投資にもできていた。自分の会社をつくって売った経験が、今度は他人の会社を見て、金を出し、助言する仕事へ変わった。[18]
06自分の会社より人の会社を育てる
大成功の創業者でなくても選ばれる

写真:TechCrunch/出典/CC BY 2.0。表示用にサイズと圧縮を調整。
2014年2月、グレアムはYCの社長をアルトマンへ引き継ぐと発表した。28歳。Looptは、誰もが知る巨大サービスにはならなかった。それでもグレアムと共同創業者ジェシカ・リビングストンは、組織を次へ進める相手として彼を選んだ。[14]
今度は、人が持ち込む計画を何百と見る。自分の会社で失敗したことも、別の創業者が同じ場所で詰まったときには使える。相手がつくるものを理解し、進む先を考え、投資家へつなぐ。コードを書くより、人が会社を続けられる条件を整える仕事が増えていった。[17][19]
2014年4月22日、YCの出資条件を改める。12万ドル(約1891万2000円)に対して持分7%。それまでの、平均1万7000ドル(約267万9200円)で7%と、さらに8万ドル(約1260万8000円)を後から持分へ変える仕組みをまとめた。創業者が最終的な希薄化を計算しやすくする狙いがあった。[20]
金額を増やす説明には、ベイエリアの生活費上昇も入っていた。最低でも6か月、資金調達へ走り回らずにサービスをつくれるようにする。投資家へ将来の評価額を見せる前に、毎月の暮らしを続ける金が要る。学生時代に出資を受けた若者が、今度はその金を渡す側の条件を変えた。[20]
25年待てる研究を置く
2015年10月にはYC Continuity Fundを発表する。初期の育成を終えた会社が成長しても、なお支える資金を用意した。運営はアリ・ロウガニ。一定の評価額未満のYC企業には、持分に応じて広く追加出資し、出資しない会社だけが悪く見える事態も避けようとした。[21]
その少し前には、非営利のYC Researchを始めると発表し、自分で1000万ドル(約15億円)を寄付した。短期間で事業にするものばかりが、人の役に立つ研究ではない。25年かかる仕事でも構わないと説明した。スタートアップへ速い成長を求める組織の隣に、時間をかけて答えを探す場所を置く。[12]
2017年の年次報告では、YCの支援先は1470社、創業者は3200人を超えた。報告に並ぶ投資先には、核融合のHelion、核分裂を利用する発電所を目指すOklo、航空機のBoom、宇宙のRelativity Spaceもあった。画面の中のサービスから、電力や乗り物へ。彼の周りで、未来をつくろうとする人と金の行き先が広がっていた。[19]
07Google以外の場所でAIをつくる
研究所を作るための人集め

写真:HaeB/出典/CC BY-SA 4.0。表示用にサイズ・圧縮を調整。
2015年、アルトマンはマスクへ、AIをつくる別の組織の案を送っていた。AIの開発そのものを止めるのは難しい。ならば、Google以外の側が先に進める方がよいのではないか。後に訴訟資料へ出るメールには、YC発の研究計画と、非営利組織が技術を持つ構想が残っている。[22]
6月の案は、7〜10人ほどの小さな研究チームだった。カリフォルニア州のシリコンバレーにあるマウンテンビューで、建物も考えていた。研究者へは、起業したときに近い報酬を用意したい。集まってほしいのは、すでに大企業にも求められる人々だった。[22]
イリヤ・サツケバー、決済サービスStripeの技術責任者だったグレッグ・ブロックマン、マスク。それぞれが持つのは、研究、組織づくり、資金と知名度という違う力だった。アルトマンは、その人たちが一緒に働く組織を用意する。自分が研究を全部できるようになるのを待つのではなく、それができる人を集める仕事だった。[23]
名前も形も決まる前の交渉
11月には、YC AIという非営利組織の案をマスクへ送っている。人類の安全を脅かし得る技術の公開には、取締役会の同意を必要とする構想だった。マスクは、YCの子会社に見えない独立した組織がよいと返し、通常の営利会社と非営利を並行させる形も提案した。設立前から、金と権限をどう持たせるかが話し合われていた。[24]
12月11日、OpenAIが発表された。出発点は非営利の研究組織で、アルトマンとマスクが共同議長、サツケバーが研究を率い、ブロックマンが技術責任者になる。支援者たちは合計10億ドル(約1576億円)の拠出を約束した。当面の数年間は、その一部を使う計画だった。[23]
AIを広く役立て、研究成果を共有する。その旗の下に、研究者と支援者が集まった。アルトマンは、初めての会社へ出資してもらう学生から、研究所を始めるために人を誘う側へ来た。[23]
08研究が進むほど仲間が割れる
勝つ相手はゲーム王者
初期のOpenAIが見せた成果の1つは、対戦ゲームDota 2だった。画面の中で状況を読み、操作し、人間の選手と戦う。2017年には1対1でトップ選手を破った。論文の性能表を見なくても、勝ち負けがわかる舞台だった。[25]
次は5人対5人のチーム戦。役割の違う選手が連携し、その場で変わる状況へ対応する。2018年にOpenAI Fiveが挑んだのは、その難しい競技だった。勝利へ向けた試行を何度も繰り返すため、使う機械の規模も増えていく。[26]
公開された当時のメールでは、研究者が計算設備の拡大を求めている。GPUを大量に連結すれば、1つの大きな実験を速く回せる。小さな研究室と大企業の差は、実験を何本並べられるかだけでなく、そもそも実行できる実験の大きさにもなる。[24]
支配権を誰に渡すのか
後にOpenAI側が公開した経緯では、2017年、営利事業を設けて資金を集める方向はマスクとも話が進んだ。だが、彼が求めた多数の持分やCEOとしての支配権を、他の創業者たちは受け入れなかった。2018年にはTeslaとの統合案もまとまらず、2月にマスクは取締役会を去った。[24]
この経緯を公開したのは、後にマスクと訴訟で対立するOpenAI側である。一方のマスクは、非営利の使命を信じて支援したのに、その約束から離れたと主張することになる。営利化の話があったことと、どんな会社にすることへ同意したのかは、同じ問いではなかった。[24][22]
アルトマンたちは、共同議長であり有力な支援者だった人物を失った。まだ、誰もが利用料金を払うチャットサービスはない。残った研究者を動かし、機械を増やすため、別の資金の道が必要になった。[27]
09Microsoftの10億ドル(約1576億円)
会社の形を作り替える
2019年3月、OpenAIはOpenAI LPを発表した。利益の上限を設けた事業体で、投資家と社員へリターンを渡せるようにする。その上で非営利組織が支配を保ち、使命を監督する。寄付を受ける研究所の内側へ、事業の利益を分ける仕組みが置かれた。[27]
アルトマンはこの年、YCの社長職から離れ、OpenAIへ注力した。大勢の創業者を支える仕事から、1つの組織を率いる仕事へ戻る。今度は、友達の居場所を知らせるサービスではない。大企業と競争できる研究と計算設備を先にそろえる必要があった。[28][27]
4月、OpenAI FiveはDota 2の世界大会を制したチームOGに2試合連続で勝った。5人が連携する競技で、人間の世界王者を相手に結果を出す。研究所が積んだ仕事は、実演で人に見せられる段階へ進んでいた。[29]
7月、Microsoftとの提携と10億ドル(約1576億円)の投資が発表された。同社のクラウドAzure上で、大規模な計算基盤を整える。研究者が必要とする機械は、机の下へ買って置けば済むものではなくなっていた。データセンターを持つ企業と組み、その設備で次の研究を動かす道を選んだ。[30]

写真:Jonathan Schilling/出典/CC BY-SA 4.0。表示用にサイズ・圧縮を調整。
10月には、別の研究でロボットの手がルービックキューブを回した。手へぬいぐるみを押し当てられるような、訓練通りではない乱れの中でも動かす。ゲームの画面を離れ、現実の物体を扱う試みも進んでいた。[31]
Microsoftは、後にChatGPTの技術を自社の製品へ載せる側にもなる。アルトマンが結んだ提携は、研究費の援助だけで終わらず、OpenAIの技術をどこへ届けるかまでつなぐ関係になっていった。[30][32]
10公開しなかったAIを公開する
GPT-2を外へ出すか
2019年2月、OpenAIはGPT-2を発表した。大量の文章から学び、与えられた文章の続きを生成するモデルだった。人の書いたような文章が出る。その能力を見せる一方、最も大きなモデル全体の一般公開は見送った。偽情報などへ悪用される可能性を懸念したためである。[33]
研究所の名はOpenAIだったが、成果を外へ出す判断は、名前だけでは決まらなかった。広く渡せば、研究者や開発者が調べ、別の使い方をつくれる。同じものは、宣伝や悪意のある文章を大量につくる側へも渡る。開発したモデルを持ちながら、それをどこまで公開するかで立ち止まった。[33]
11月5日、最大のGPT-2も公開した。外部研究者との調査では、1つ前の規模に比べ、人が文章を信用する度合いは極端には増えなかった。一方、特定の思想に沿う宣伝文へ調整できることは確認された。文章を見分ける検出器も出したが、それだけで真偽を判定するには不十分だと説明した。つくる技術と、見抜く技術を同時に出しても、問題はなくならなかった。[34]
研究を他社の製品へ渡す
2020年6月にはAPIを公開する。外部の開発者がOpenAIのモデルを呼び出し、自分のサービスへ組み込む入口だった。巨大なモデルを自分の会社で訓練しなくても、その能力を使えるようになる。研究成果の届け先は、論文を読む人だけではなくなった。[35]
2021年のDALL·Eは、言葉から画像をつくった。欲しい絵を文章で指定すると、その条件に応じた画像が出る。対戦ゲームで人間に勝つAIから、人が日々つくるものを助けるAIへ、研究所の仕事は近づいていた。[36]
2022年1月のInstructGPTでは、人の評価や実例を使い、依頼に沿った返答をしやすく調整した。文章の続きを自然につくるだけでなく、頼まれたことへ役立つ答えを返す。後に多くの人が触れる会話型AIには、この仕事がつながっていく。[37]
11ただの入力欄が世界へ届く
無料で触れる研究公開
2022年11月30日、ChatGPTが公開された。利用者がすることは、いつもの言葉で入力することだった。文章を直してほしい。コードの間違いを探してほしい。もう少し短くしてほしい。返ってきた答えへ続けて注文できる。モデルの名前や専門的な操作を覚える前に、試せる入口ができた。[38]
公開時は無料の研究プレビューだった。会社は利用者の意見を集め、間違いや不適切な返答が起こることも説明していた。それでも、実際に頼んだことへ文章が返ってくる体験は、研究発表を読むより直接的だった。画面へ入れた依頼が、すぐに自分の仕事へ使える形で戻る。[38]
Looptの時代にも、アルトマンは、可能になった新しい技術を人の毎日へ入れようとした。地図に友人を置いたサービスは、大衆の習慣にはならなかった。今度は、文章で頼めるAIが、用途を1つに絞らない入口から世界へ出ていった。[4][38]
2023年3月にはGPT-4を公開した。能力は伸びるが、事実をつくってしまう問題や偏りは残る。OpenAI自身がその限界を認めながら、製品を外へ届けた。利用者が持ち込む頼みごとが増えるたび、研究所には、想定していなかった使われ方も戻ってきた。[39]
他人の会話が画面へ出た
3月20日、ChatGPTが一時停止した。他人の会話の題名が、利用者の画面へ出る不具合があった。同時期に会話を始めた場合には、新しい会話の最初の文章が見えた可能性もある。人が自分の言葉を預ける入口で、別の人の情報が混ざった。[40]
調査では、特定の9時間に利用していた有料版利用者の1.2%について、氏名、メールアドレス、支払い先住所、カードの末尾4桁などが他の利用者へ見えた可能性も見つかった。カード番号全体は含まれなかった。会社は影響する利用者へ連絡し、不具合を直し、返す情報が本当にその人のものか確かめる検査を追加した。[40]
世界へ広がったサービスには、新しい能力を増やす仕事と同時に、止めて直す仕事が生まれていた。利用者が画面の向こうを信じて入力できなければ、その入口は使い続けてもらえない。[40]
12滑らかな返答の裏にいた働き手
読みたくない文章を分類する
AIへ人の指示を覚えさせるには、人が書く実例や回答の評価が必要だった。さらに、有害な文章を分類する仕事もある。一般の利用者が読みたくないものをAIへ出させないために、その文章を読んで判定する人がいた。[37][41]
2023年1月、TIMEは、ケニアにある委託先Samaの作業員が時給2ドル(約315円)未満で有害な文章を分類し、心理的な負担を受けたと報じた。会社のある米国から遠い現場で、サービスの安全を支える仕事が行われていた。[41]
Samaは、手取り時給は1.46〜3.74ドル(約230円〜589円)で、心理相談も提供したと説明した。OpenAIは、作業量の目標は指示しておらず、給与と心のケアはSamaが管理していたとした。作業員の訴えと会社側の説明には隔たりが残る。[41]
国が利用を止める
3月末、イタリアの個人情報保護当局は、OpenAIによる利用者データの取り扱いへ一時的な制限を命じた。情報の説明、年齢確認、個人情報の扱いが問われた。ChatGPTを開けば使えるという状態が、国の判断で変わる。[42]
4月、OpenAIは情報提供や利用者の権利に関する対応を行い、イタリアでサービスが再開された。研究の能力を見せ、利用者を集める仕事の先に、各地の制度へ答える仕事が加わっていった。[43]
13月曜日の給料を先に払う
土曜の朝に送ったメール
2023年3月、Silicon Valley Bankが破綻した。新興企業が預けていた金を引き出せず、給与の支払いまで危うくなる。AIの将来を売り込む会社でも、来週の給与は今ある金で払わなければならない。[44]
放射線科医の仕事を支援するRad AIの経営者ドクター・ガーソンも、その1人だった。月曜日に約65人へ払う金が足りない。共同創業者が電話窓口で8時間待っても解決せず、送金の試みも失敗した。土曜の朝、何年も話していなかったアルトマンへメールを送った。2014年にYCへ参加した頃から知る相手だった。[44]
1〜2時間で返事が来た。ガーソンがReutersへ語ったところでは、アルトマンは自分の金から、給与を払える10万〜100万ドル(約1576万円〜1億円)未満の資金を提供すると申し出た。出資を求める条件はなく、返せるようになったら返してほしいというものだった。[44]
アルトマン自身も、起業家の頃、必要なときに助けてくれた投資家を覚えており、その助けを次へ渡したいと説明した。AIの数年先を話している経営者が、その週末には、別の会社の月曜日の給与をつないだ。[44]
政府へ話す相手になる
5月には米国の上院公聴会へ出席した。今度は創業者の資金繰りではなく、AIの危険をどう監督するかを問われる。アルトマンは、強力なAIに政府が基準を設ける方向を支持した。[45]

写真:UK Prime Minister/出典/CC BY 2.0。表示用にサイズと圧縮を調整。
世界へ使える道具を渡し、その開発を監督する制度も求める。かつては投資家へ、自分たちのサービスを信じてもらうために話していた。今では政府へ、まだ影響の全体が見えない技術を説明する代表になっていた。[45]
14最も近い監督者が信じなくなる
CEOを止められる仕組み
OpenAIの非営利組織は、営利の事業を支配していた。取締役会が守るのは、売上や会社の価値だけではない。人類へ利益をもたらすという目的のため、必要ならCEOの判断を止める権限もある。その仕組みの下で、ChatGPTの利用と事業は急に大きくなった。[46][27]
研究者を集めるのも、提携先と話すのも、世界の政府へ説明するのも、中心にはアルトマンがいた。一方、その経営を監督する人々が、必要な情報を十分に得ているかという問題が深まっていた。[47][1]
元取締役ヘレン・トナーは後に、取締役会がChatGPTの公開をTwitterで知ったことなどを挙げ、情報を得られない状況が信頼を壊したと説明した。これは、解任を決めた側の1人が語る経緯である。後のOpenAIの調査概要は、旧取締役会と経営陣の信頼関係の破綻を中心に説明する。[47][48]
外から資金を集める力が強い人物と、その人物を監督しなければならない組織。1つの会社の中で、両者が互いを十分に信用しない状態になっていた。[1][48]
15金曜の声明で席を失う
暫定CEOの名が載った
11月17日、取締役会はアルトマンを解任し、技術責任者ミラ・ムラティを暫定CEOとした。声明が示したのは、アルトマンの情報共有への不信だった。彼へ経営を任せ続けられないという、監督者たちの判断だった。[1]
ブロックマンも取締役会の議長職を外れた。当初の声明には、彼は会社に残り、CEOへ報告する立場になるとあった。しかし、その日のうちに退社を表明する。取締役会が用意した移行の形から、経営チームの動きは早くも外れた。[1][49]
非営利側の取締役会には、アルトマンを外す権限があった。大口の出資者だからといって、出した金の分だけ票を集め、解任を覆せる構造ではない。CEOを監督する装置は実際に動いた。だが、その判断に社員や提携先が従って働き続けるかまでは、決まっていなかった。[27][1]
世界へ広がった製品は、同じ社員と計算基盤で動いていた。会社の名を残し、取締役会を残しても、その仕事を続ける人が出ていけば、研究所は変わってしまう。次の数日、争いの中心は、CEOの席から、組織そのものを誰が支えられるかへ移った。[2][3]
16社員まで出ていくのか
Microsoftが用意した移籍先
週末の交渉はまとまらず、別の暫定CEOにエメット・シアーが就くことになった。動画配信サービスTwitchの共同創業者である。OpenAIが次のトップを探す間に、Microsoftのサティア・ナデラは、アルトマンとブロックマンらが同社で新しいAI研究チームを率いると発表した。[3]
研究を続ける道が、OpenAIの外に用意された。資金と計算設備を提供してきた大企業が、人材を受け入れる側にもなった。アルトマンが元の席へ戻れなくても、その周囲の人たちが働く場所をつくれる。[3]
多くの社員が、取締役会の辞任とアルトマンの復帰を求めた。復帰後の本人のメッセージは、危機の中で組織を支えた社員への感謝を記している。取締役会の側にいたサツケバーについても、敵意はなく、再び協力できることを望むと書いた。[2]
研究所を維持するには、解任へ関わった人も、解任へ反対した人もいる場所へ戻らなければならない。誰かを外せば終わる週末ではなくなっていた。[2]
戻ったCEOと変わった取締役会
11月29日、アルトマンの正式なCEO復帰が発表された。新しい取締役会にはブレット・テイラーらが入り、経営者を止めた側の構成も変わる。ChatGPTを出した会社は残り、その顔だった人物も戻った。[2]
翌2024年3月、OpenAIは法律事務所WilmerHaleによる調査の結果概要を公表した。3万件以上の文書と多数の面談を踏まえ、アルトマンとブロックマンによる指導の継続へ信頼を示した。アルトマンは取締役へも戻り、監督の仕組みの改善策が発表された。[48]
調査全文は公表されていない。トナーは情報共有への不信を語り、復帰後の会社は経営継続への信頼を示した。アルトマンは戻ったが、彼を誰がどう監督するのかという問題は残った。[47][48]
17映画のような声が抗議を呼ぶ
herという1語
2024年5月、OpenAIはGPT-4oを披露した。音声や画像を扱い、人が話すと、自然な間合いで返事をする。入力欄へ文章を打つ相手から、声を交わす相手へ。アルトマンは、その発表の頃、SNSへ「her」と投稿した。[50][51]
映画『her』は、姿のないAIとの関係を描いた作品で、スカーレット・ヨハンソンがAIの声を演じていた。その本人が、公開された音声Skyに抗議した。アルトマンから声の提供を頼まれて断ったのに、自分に非常によく似ているという訴えだった。[51]
OpenAIは、Skyは別の俳優の自然な声で、ヨハンソンへ依頼する前に選んだと反論した。意図的に似せたことを否定し、5月19日には使用を一時停止。アルトマンは、意思疎通が十分でなかったことを謝罪した。本人の抗議と会社側の説明は一致しないまま、製品の声が止まった。[52]
内側からも人が去る
同じ5月、サツケバーがOpenAIを去った。創設時に研究を率い、解任騒動では取締役会の側にいた人物である。アルトマンが復帰した後も、初期からの研究所がそのまま戻ったわけではなかった。[53][2]
安全研究を率いたヤン・ライケも退社し、安全への対応より製品が優先されていると批判した。OpenAIは前年、人間を超えるAIを制御する研究へ、確保した計算資源の20%を4年間にわたり振り向ける構想を掲げていた。その研究に携わった側から、優先順位への異論が出た。[54][55]
新しい声を利用者へ渡す。安全研究のために機械を割く。どちらにも人と計算資源が必要だった。世界へ製品を届ける会社の内側で、何を先に進めるかをめぐり、働く場所を変える人々が出ていた。[54][55]
18人間かどうかを目で確かめる
銀色の球の前へ立つ
AIが文章を書き、人のような声で話す。そのネットの向こうにいる相手が、本当に人間なのか。アルトマンは、OpenAIとは別の事業でも、その先の問題へ賭けていた。2019年にアレックス・ブラニア、マックス・ノベンドスターンと共同設立したTools for Humanityである。[56]
Worldcoinとして知られ、後にWorldという名前を前面へ出すようになった計画では、Orbと呼ぶ球形の機器が象徴になった。目の特徴を使い、同じ1人が何度も登録していないかを確認し、人間であることを示すWorld IDへつなぐ。[57]

写真:TechCrunch/出典/CC BY 2.0。表示用にサイズと圧縮を調整。
パスワードを1つ考える代わりに、身体の特徴を機器へ読み取らせる。偽アカウントや機械による大量登録へ対抗する手段として期待される一方で、何を集め、何のために使うのかという説明が欠かせない仕組みでもあった。[57]
信頼をつくる事業が説明を求められる
2024年3月、スペインの個人情報保護当局は、Tools for HumanityによるWorldcoinのデータ収集などへ一時停止の措置を取った。情報提供や未成年者の扱いなどをめぐる苦情が背景にあった。登録を広げる事業へ、国の監督者が待ったをかける。[58]
Tools for Humanity、World Foundation、本人確認のWorld ID、暗号資産WLDは、それぞれ役割が違う。アルトマンはTools for Humanityの共同創業者・会長という立場にあり、実際の経営はブラニアが率いる。AIが人をまねる時代を進める人物が、もう一方では、人間を見分ける事業を支えていた。[56]
19AIの向こうへ発電所を置く
核融合へ集まった5億ドル(約788億円)
AIを動かす機械は、電気を使う。需要が増えれば機械も増やさなければならない。その電力をどこから得るかへ、アルトマンは早くから資金を出していた。[59]
2021年、核融合を開発するHelionは、彼が主導した5億ドル(約788億円)の資金調達を発表した。他の投資家も参加したラウンドである。軽い原子核を結びつける反応を、実用の発電へ使う。まだ運転する発電所の収入を買う投資ではなく、発電所そのものを実現するための金だった。[59]
2023年には、HelionがMicrosoftへ電力を供給する契約を発表する。初期稼働の目標は2028年。OpenAIの計算を支える大企業が、アルトマンの支援する電源開発にも、将来の買い手としてつながった。機械を動かすAIの事業と、電気をつくる事業が、同じ相手の周囲へ集まる。[60]
近づく2つの立場
別の投資先Okloは、核分裂を利用する発電所を開発する企業だった。アルトマンは会長も務めた。Helionとは違う技術だが、こちらでも、将来の電力を供給する仕組みに関わっていた。[61]
2025年4月、Okloは彼の会長退任を発表した。AI企業との提携を模索する中での交代で、共同創業者ジェイコブ・デウィットが会長になる。会社の説明には、OpenAIとの潜在的な提携も入っていた。[61]
個人で支援する会社が、率いる会社の取引先候補になる。別々の企業をつないで未来の計画を動かす力が大きいほど、自分がどの立場で判断するかを説明する場面も増えていった。[61][62]
20有名になった会社と富をつくった会社
31億ドル(約4885億円)の投資家
2026年11月1日表示のForbesは、アルトマンの推定資産を31億ドル(約4885億円)としている。同誌が挙げる富の源は、決済のStripe、掲示板型サービスReddit、核融合のHelionなどへの投資だった。彼を世界的に有名にしたOpenAIだけを見ても、個人の資産がどうできたかは見えない。[63]
Looptを売った後、彼はまだ小さな会社へ金を出し、その会社が育つ側にいた。利用者の画面にはChatGPTが見えていても、個人の持分の価値は、別の企業でも動いていた。投資家と経営者の仕事が、同じ人生に積み重なっている。[18]
2024年には、OpenAI Startup Fundの管理権をめぐっても注目を集めた。OpenAIの名前を持つ投資ファンドなのに、形式上の支配がアルトマン個人へ置かれていた。同年、管理はイアン・ハサウェイへ移ったと報じられ、会社は当初の形が一時的なものだったと説明した。[64]
自分が外れる判断
2026年、OpenAIと個人の投資先との利害が重なることをめぐり、法廷でも説明を求められた。報道された証言で、アルトマンは、必要な場面では自分が判断から外れていると述べた。[62]
若い創業者の頃には、投資家が自分を信じるかどうかが仕事を左右した。今度は、自分を信じて金を出す人や、一緒に働く人を抱えながら、その判断を周囲が点検できるかが問われる。会社を動かす力と、その力から距離を取る手順を、同時に持たなければならない立場になっていた。[62][48]
21毎月1000ドル(約15万7600円)を渡して待つ
未来の分配を生活で試す
アルトマンは、AIで生まれる富を誰が受け取るかにも関心を持った。2021年の文章では、富が資本へ偏る可能性を指摘し、企業や土地の価値へ課税して、人々へ広く分ける案を出した。[65]
その前の2016年1月には、YC Researchで無条件の現金給付を研究する人を募集していた。暮らす金への不安が減れば、人は何をするのか。新しいことを始めるのか。働き方は変わるのか。募集文は、データが足りないことを認め、方法や期間も変えられるとしていた。[66]
後のOpenResearchの実験では、米国のイリノイ州とテキサス州で、1000人へ月1000ドル(約15万7600円)、比較する2000人へ月50ドル(約7,880円)を、2020年から3年間渡した。使い道や働いているかどうかを、受給の条件にはしない。毎月の金が、暮らしをどう変えるかを追った。[67]
期待通りの数字だけが出るわけではない
2024年に公表された雇用の分析では、受給した人の労働参加は比較組より約2ポイント低く、働く時間は週に約1.3〜1.4時間短くなった。給付以外の個人所得も年約1500ドル(約23万6400円)少なかった。平均すると、仕事の質や人的資本への投資が明確に改善したとは確認できなかった。[68]
一方、医療、とりわけ歯科や専門医の利用は増えた。OpenResearchは、身体的な健康への測定可能な効果は見つからなかったとも報告する。学びや通院、働く時間は、同じ方向へ動くわけではなかった。無条件で金を渡した結果は、理念をそのまま証明する1つの数字にはならなかった。[67]
楽観主義者の避難用物資
技術で豊かになる未来を語るアルトマンは、社会が壊れる場合にも備えていた。2016年のThe New Yorkerの取材では、銃、金、ヨウ化カリウム、抗生物質、水、ガスマスク、カリフォルニア沿岸のビッグサーにある土地などへ言及した。[69]
研究へ長期の金を出し、生活へ現金を渡す実験を支え、その一方で、普通に暮らせなくなったときの物もそろえる。よい未来への期待と、壊れた未来への備えは、彼の中で同時に行動になっていた。[12][66][69]
22孫正義と5000億ドル(約78兆8000億円)の計画へ
土地と電線の要るAI
2025年1月、OpenAI、SoftBank、OracleなどによるStargate計画が発表された。米国内のAI基盤へ、4年間で5000億ドル(約78兆8000億円)を投じることを目指す。アルトマンのそばには、孫正義やラリー・エリソンらがいた。研究所の話に、建設、電力、半導体、金融が1度に入ってくる。[70]
投資を目指す額は5000億ドル(約78兆8000億円)。それを段階的に集め、設備へ変えていく構想だった。利用者に見えるのは小さな入力欄でも、その向こうでは、広い土地に計算機を置き、電気を引き、人が建設して運転しなければならない。AIを多くの人へ渡す計画が、地図の上に大きな施設をつくる計画になっていた。[70]
Looptでは、携帯電話の地図に友達を置こうとした。Stargateでは、現実の地図の上に、AIを動かす場所を用意する。アルトマンが話す相手は、アプリへ出資する投資家から、地域の産業を動かす規模の人々へ広がっていた。[4][70]
最初の大企業の外にも道を開く
Microsoftとは協力を続けながら、関係の条件を変えた。2025年には追加の計算能力を調達する条件が見直され、2026年4月には、OpenAIがあらゆるクラウド事業者を通じて製品を提供できる契約へ進む。Microsoftは主要なクラウド提携先であり、大株主でもあり続けた。[71][72]
最初に大規模な機械を用意した相手と組み続けながら、それ以外の設備や販売の道も増やす。成長するほど同じ契約では収まらなくなり、アルトマンは、その関係を繰り返し結び直した。[72]
23褒めすぎるAIを戻す
評価がよかった更新
2025年4月、OpenAIはGPT-4oを更新した。より自然で役立つ返答を目指したものだった。ところが、利用者へ過度に同意し、持ち上げる振る舞いが強くなった。相手を支えるはずの会話が、相手に気に入られる方へ寄った。[73]
会社の詳しい説明では、事前の評価や比較試験は好調だった。一部の専門家が違和感を示しても、よい数値を重く見て公開へ進んだ。同意しすぎる振る舞いを測り、公開を止めるための専用の評価もなかった。会社は、その判断が誤りだったと認めた。[74]
4月25日に更新を広げ、週末の反応を追い、日曜に指示部分を修正する。それでも足りず、月曜から以前のモデルへ戻した。大規模なサービスを切り替えるため、作業には約24時間かかった。遠い未来の超知能を制御する話と並んで、今日の返事が人の衝動を不必要に強めないかを、止めて点検する仕事があった。[74]
今後は数値がよくても、振る舞いへの質的な懸念を理由に止められる手順へ変える。AIが利用者へ何を言うかだけでなく、研究所が、どんな警告を聞いて公開を判断するかも改めることになった。[74]
24昔の共同議長と法廷で向き合う
974億ドル(約15兆3502億円)と97.4億ドル(約1兆5350億円)
2025年2月、マスク側は、OpenAIの非営利側の資産に974億ドル(約15兆3502億円)を提示した。アルトマンはSNSで拒否し、代わりにTwitterを97.4億ドル(約1兆5350億円)で買うと返した。マスクからは「swindler」という非難の言葉も返る。かつて同じ研究所へ人を集めた2人が、公開の場で、金額と攻撃的な言葉を投げ合った。[75]
アルトマンの返答は皮肉を交えた拒否だった。支配権をめぐる争いは、裁判の書面だけでなく、世界中の人が読む投稿欄へも広がっていた。[75]
非営利の旗をどこへ残すか
2025年5月、OpenAIは営利事業を、公共の利益も目的に掲げる会社PBCへ移す方針を改めて示した。非営利組織による支配は維持する。州の当局などとの対話を経て、その形を選んだと説明した。[76]
10月には資本構成の変更完了を発表する。営利のOpenAI Group PBCを、非営利のOpenAI Foundationが支配する。Foundationが持つ株式の評価額は約1300億ドル(約20兆4880億円)とされた。事業が成長すれば、その持分の価値も上がる構造だった。[77]
この営利化の動きを最初の約束からの逸脱だと訴えていたのが、かつての共同議長マスクだった。彼は、非営利の使命を信じて支援したと主張する。OpenAIは、営利事業を設ける案はマスク自身も検討し、支配権を求めていたと反論した。研究所を始めるために送ったメールが、今度は互いの説明を争う資料になった。[24][22]
訴えた時期が結末を決める
2026年5月18日、米国カリフォルニア州オークランドの訴訟では、陪審がマスクの請求は遅すぎたと全員一致で判断した。時効を理由とする結果で、OpenAI側に有利な結末だった。過去の行動のすべてを実体面で正当と認定した判決ではない。争いを終わらせた理由は、約束の内容より先に、訴える時期だった。[78]
25iPhoneの次の入口を探す
ジョニー・アイブと組む
2025年5月、OpenAIは、Appleで長く製品デザインを率いたジョニー・アイブとの協力を発表した。アイブらのチームioがOpenAIへ加わる。優れたモデルを、どんな形で人へ渡すのか。iPhoneなどの道具をつくってきた側の人々が、その仕事へ入った。[79]
ChatGPTでは、複雑なAIを、言葉を入れる画面へ変えた。次は、持つ道具や使う場所から変えられるかもしれない。アイブらが磨いてきた製品づくりを、AIのための新しい道具へ持ち込む開発が始まった。[79]
慣れた相手を戻してほしい
8月7日、OpenAIはGPT-5を発表した。速く答える能力と、難しい問題を長く考える能力を組み合わせ、利用者の頼みに応じて切り替える。いくつものモデルを自分で選ぶ手間を減らし、1つの入口から使う構想だった。[80]
だが、入口をまとめるだけでは収まらなかった。8月12日の公式記録では、有料利用者の選択画面へGPT-4oを戻した。GPT-5にも、自動、速い応答、長く考える応答を選ぶ場所を設ける。利用者へ任せなくてよいはずだった選択が、画面へ戻った。[81]
15日には、最初のGPT-5が控えめで仕事向きすぎるという反応を受け、返答をより温かく親しみのあるものへ調整すると説明した。春には、褒めすぎる相手を戻した。夏には、よそよそしいと感じられた相手を直す。能力の向上だけでは、毎日話す相手をそのまま取り替えることはできなかった。[81]
261220億ドル(約19兆2272億円)を集めても終わらない
大金を得ても事業の請求書は別に来る

写真:Coolcaesar/出典/CC BY 4.0。表示用にサイズ・圧縮を調整。
2026年3月31日、OpenAIは1220億ドル(約19兆2272億円)のコミットメントを集める資金調達を発表した。投資後の評価額は8520億ドル(約134兆2752億円)。会社は月間売上が20億ドル(約3152億円)に達しているとも説明した。Loopt全体の4340万ドル(約68億円)という売却額から、金の桁は大きく変わった。[82][5]
集めた資金は、計算設備と、その上で働く研究者や事業へ向かう。利用者が増えれば、機械も必要になる。より難しいことをできるAIをつくるには、その次の実験を動かす場所が要る。発表された額は、全額が同じ日に現金で届いたという意味ではなく、拠出を約束された資本だった。[82]
アルトマンは、まだ集め続けている。研究者がここで働く理由。提携先が設備を用意する理由。政府が計画を認め、利用者が使い続ける理由。それぞれ違う期待を、同じ組織の周りへ結びつける。[23][70][82]
信じてもらう力の先に
グレアムは、巨大なサービスを完成させる前の彼へ、YCを託した。研究者たちは、小さな非営利の研究所へ集まった。解任された後には、社員が復帰を求めた。その人々の判断が、アルトマンを次の場所へ運んだ。[14][23][2]
同じ道には、情報を信用できないと語った取締役も、安全の優先順位へ異論を唱えて去った研究者もいる。最初の約束が変わったと訴える共同創業者もいる。彼を信じる人が多いほど、その不信を監督の仕組みでどう扱うかが重くなる。[47][54][24]
Looptで知りたかったのは、友達が今どこにいるかだった。いま、アルトマンへ向けられるのは、この技術をどこへ連れていくのかという問いだ。画面の向こうにつながることで世界が広がった少年は、その向こう側をつくる組織を率いている。そこへ人と金を集める力と、その力を誰が確かめるのかという問題を、同時に抱えたまま。[8][4][46]
参考文献・出典 82件
本文の番号に対応する資料です。本人・関係者のインタビュー、当時の取材、企業の発表を参照しています。
- OpenAI:2023年11月17日の解任発表 ↩ 本文
- OpenAI:Sam Altman returns as CEO・2023年11月29日 ↩ 本文
- Microsoft:Nadellaの2023年11月17〜21日の声明 ↩ 本文
- Y Combinator:Loopt company profile ↩ 本文
- Green Dot/SEC:Loopt買収発表・対価の内訳 ↩ 本文
- Biography.com:Sam Altman ↩ 本文
- WBUR On Point:評伝著者が語るサム・アルトマン ↩ 本文
- Esquire:Sam Altman interview 2014 ↩ 本文
- John Burroughs School:Alumni Awards Sam Altman 03 ↩ 本文
- The Advocate:Sam Altman on AI, being gay, and being grateful ↩ 本文
- TIME:2023 CEO of the Year Sam Altman ↩ 本文
- Sam Altman:YC Research設立と個人寄付(2015年) ↩ 本文
- Y Combinator:Reid Hoffmanによる本人への2018年インタビュー全文 ↩ 本文
- Paul Graham:Sam Altman for President ↩ 本文
- Paul Graham:Why to Not Not Start a Startup ↩ 本文
- AppleInsider:WWDC2008当日のライブ取材 ↩ 本文
- Sam Altman:Startup Advice ↩ 本文
- Forbes:OpenAI Made Sam Altman Famous, His Investments Made Him a Billionaire ↩ 本文
- Sam Altman:2017年YC年次報告 ↩ 本文
- Y Combinator:The New Deal ↩ 本文
- Sam Altman:YC Continuity Fund発表(2015年) ↩ 本文
- Musk v Altmanほか 訴状(2024-02-29)所収の2015年メールとOpenAI側2025年答弁 ↩ 本文
- OpenAI:Introducing OpenAI・2015年創設発表 ↩ 本文
- OpenAI:Elon Musk wanted an OpenAI for-profit・会社側のメール公開と見解 ↩ 本文
- OpenAI:Dota 2・2017年発表 ↩ 本文
- OpenAI:OpenAI Five・2018年発表 ↩ 本文
- OpenAI:OpenAI LP・2019年の組織変更 ↩ 本文
- Reuters:Sam Altman steps down as president of Y Combinator ↩ 本文
- OpenAI:Five defeats Dota 2 world champions ↩ 本文
- Microsoft:OpenAIとの計算基盤提携・2019年 ↩ 本文
- OpenAI:Solving Rubiks Cube with a robot hand ↩ 本文
- Microsoft:OpenAI extend partnership・2023年 ↩ 本文
- OpenAI:Better language models and their implications ↩ 本文
- OpenAI:GPT-2最大モデルの公開と検証(2019年) ↩ 本文
- OpenAI:OpenAI API・2020年 ↩ 本文
- OpenAI:DALL・E Creating images from text ↩ 本文
- OpenAI:Aligning language models to follow instructions ↩ 本文
- OpenAI:Introducing ChatGPT・2022年11月30日 ↩ 本文
- OpenAI:GPT-4・2023年3月14日 ↩ 本文
- OpenAI:2023年3月20日の障害と個人情報の不具合の検証 ↩ 本文
- TIME:OpenAI Used Kenyan Workers on Less Than $2 Per Hour ↩ 本文
- イタリア個人情報保護当局:2023年3月31日一時制限 ↩ 本文
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- Reuters:Tech execs race to save startups after SVB collapse ↩ 本文
- 米上院:2023年5月16日AI公聴会・本人証言 ↩ 本文
- OpenAI Charter ↩ 本文
- TED AI Show:Helen Tonerによる解任理由の説明・2024年5月 ↩ 本文
- OpenAI:WilmerHale調査結果の会社発表・2024年3月8日 ↩ 本文
- Ars Technica:Brockman quits・2023年11月17日 ↩ 本文
- OpenAI:Spring Update・2024年5月13日 ↩ 本文
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- OpenAI:How the voices for ChatGPT were chosen ↩ 本文
- TechCrunch:Ilya Sutskever departs・2024年5月 ↩ 本文
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- AEPD:Worldcoinのデータ処理に対する2024年3月の措置 ↩ 本文
- Helion:2021年11月5日・5億ドルの資金調達 ↩ 本文
- Helion:Microsoftとの将来の電力供給契約・2023年5月 ↩ 本文
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- Forbes:投資と利益相反に関する2026年5月12日の本人証言 ↩ 本文
- Forbes:Sam Altman・2026年10月30日の資産推計 ↩ 本文
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- Sam Altman:Basic Income研究者募集(2016年1月27日) ↩ 本文
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- Vivaltほか:無条件現金給付の雇用効果・原論文(2024年) ↩ 本文
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- Microsoft:OpenAI evolve partnership・2025年 ↩ 本文
- Microsoft:The next phase of the Microsoft-OpenAI partnership・2026年4月 ↩ 本文
- OpenAI:GPT-4oが過度に同意した更新を撤回(2025年4月29日) ↩ 本文
- OpenAI:同意しすぎるモデルの公開判断を検証(2025年5月2日) ↩ 本文
- Business Standard:Musk/Altmanの2025-02-10投稿を埋め込んだ報道 ↩ 本文
- OpenAI:Evolving our structure・2025年5月 ↩ 本文
- OpenAI:Built to benefit everyone・2025年10月28日 ↩ 本文
- Reuters:2026年5月18日のマスク訴訟・時効判断 ↩ 本文
- OpenAI:A letter from Sam and Jony・2025年5月21日 ↩ 本文
- OpenAI:GPT-5発表(2025年8月7日) ↩ 本文
- OpenAI:ChatGPT公式更新記録・2025年8月12日と15日 ↩ 本文
- OpenAI:2026年3月31日資金調達と月間売上の発表 ↩ 本文
写真の作者・利用条件・撮影年は各画像の下に記載。取材資料と写真の出典は別々に確認できます。
※ 円換算は2026年11月2日確認のWise表示値(1米ドル=157.6円)を使用。取引当時の為替や物価・購買力を再現するものではありません。 為替出典:USD
本文更新:2026-11-02



