THE STORY
アレックス・カープの物語
選んだ道。その先で、起きたこと。
01売りたい相手を訴える
陸軍の扉をこじ開ける
2016年6月30日、Palantirはアメリカ陸軍を訴えた。ソフトウェアを買ってほしい。その相手を法廷へ引き出す。共同創業者でCEOのアレックス・カープたちは、契約を待つだけでは入れない場所へ、裁判を通じて入ろうとした。[1]
陸軍が求めるのは、さまざまな情報を集めて分析するシステムだった。Palantirには、すでに使われているGothamがある。ところが調達は、大がかりな新規開発を前提に進んでいた。自分たちの製品を改良すれば応えられるかもしれない。それなのに、比較される手前で道が閉じている。会社は、既存の民間製品を検討する法律上の義務が果たされていないと争った。[2]
後に陸軍は、この会社の製品を買うため、10年間で上限100億ドル(約1兆5760億円)の契約枠を作る。だが、その間には訴訟、赤字、顧客の離脱、戦争があった。率いるカープは軍人でも、コードを書く技術者でもない。法律を学び、ドイツで社会理論の博士号を取った男だった。[3][4]
02文字でつまずく少年
医師と芸術家の家
1967年、アレクサンダー・カープはニューヨークに生まれ、アメリカ東部・ペンシルベニア州の歴史都市フィラデルフィアで育った。父はユダヤ系の小児科医、母は黒人の芸術家。両親は社会運動に関心を持ち、子どもを抗議活動へ連れていった。国家を無条件に信頼するより、その振る舞いを問い直す家庭だった。[4][5]
地理データ:Natural Earth(パブリックドメイン)。 湖の補助データ:© OpenStreetMap contributors(ODbL)。使用データ。現代の地理と都市の代表位置。出生宅・移動経路ではありません。編集部作図。
家では芸術や歴史に触れられた。週末には美術館や文化の催しへ出かける。本人は、家を出てからしばらく美術館に行きたくなくなるほどだったと冗談を言う。医師と芸術家の両親は、世界を知る入口を息子へ用意した。[6]
一方、学校では文字が壁になった。カープには、読み書きに困難の生じるディスレクシアがある。考えられることと、答案や文章の形で示せることが同じ速度では進まない。自分の能力をうまく伝えられないまま、成績をつけられることになる。本人はこの特性について長く公に語ってこなかった。[6][7]
期待を下げなかった先生
フィラデルフィアのCentral High Schoolは、市内から優秀な生徒が集まる選抜校だった。ここでカープは、能力の高い生徒向けのプログラムへ入るため、知能検査を受けた。担当者のスナイダー先生は、結果を見て本人への要求を引き上げた。[8]
ディスレクシアはある。それでも、この能力でBを取ってよいことにはならない。Aを取れるはずだ。そう扱われたことが、本人の転機になった。できない部分に合わせて期待を下げるのではなく、できる部分をもっと使うよう求められた。カープは後に、優秀な生徒から、さらに突出した生徒へ変わったきっかけだったと話している。[8]
進路は閉じなかった。フィラデルフィア近郊のHaverford Collegeで学び、1989年に卒業する。次に進んだのは、アメリカ西部・カリフォルニア州のStanford Universityの法科大学院だった。[4]

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03正反対の同級生
ティールとの議論
Stanfordで出会ったピーター・ティールは、同じ寮に暮らし、授業も重なる相手だった。左派の家庭で育ったカープと、保守・リバタリアンの論客だったティール。政治の話をすれば、簡単には折り合わない。[5]

写真:King of Hearts/出典/CC BY-SA 3.0。表示用の縮小・圧縮。切り抜き表示もCC BY-SA 3.0。
それでも、カープはティールとの議論を好んだ。違う意見を聞いて穏やかに受け流すのではなく、反論し、問い返す。後の取材にも、2人が互いに議論を仕掛けていた様子が残っている。政治的に同じ場所へ立たなくても、相手と考え続ける関係は作れた。[5]
1992年、カープは法務博士号を取得した。しかし、法律事務所で弁護士として働く道へは進まなかった。資格と収入が結びつきやすい進路を離れ、海の向こうへ渡る。向かったのはドイツ中西部・大学や研究機関が集まるフランクフルトだった。[4]
ティールもやがて法律の仕事を離れ、投資と起業へ向かう。別々に進んだ2人の関係は切れなかった。大学院の議論相手は、後に、カープへ会社を持ち込む相手になる。[9][5]
04ドイツ語で社会を問う
攻撃性を研究する
フランクフルトでカープが向き合ったのは、人々を結びつける社会と、その中にある攻撃性だった。攻撃は人を分断するだけなのか。ある種の攻撃が、その社会では当たり前のものとして受け入れられ、集団を結びつけることもあるのではないか。そんな問いを、社会理論と精神分析を通じて考えた。[10]
博士論文を審査したカローラ・ブレーデは、まだ十分にドイツ語を話せなかった頃のカープを知っていた。カープは英語で済ませず、ドイツ語で論文を書く。母語の読み書きにも困難を抱える男が、別の言語で長い議論を組み立てていった。[10]
2002年、Goethe Universityで博士号を得る。公表された経歴には、優秀な成績を示すmagna cum laudeと記された。[10][4]
著名な哲学者ユルゲン・ハーバーマスのセミナーにも出席し、面談や理論から刺激を受けた。ただし、博士論文を直接見た第1審査者はブレーデである。ハーバーマスはカープをブレーデへ紹介し、カープは彼女や、精神分析を研究するFreud Instituteの人々と研究を進めた。思想家1人の教えを、そのまま後の会社へ移したという単純な経歴ではなかった。[10]
商売には成果物がある
カープは後に、学界への不満を率直に語る。自分の議論が正しいと思っても、政治的な関係に左右される。それに対して、商売には実際に動く成果物がある。何を好むかだけでは決まらず、作ったものが役に立つかを相手へ示せる。学界を離れた本人は、2つの世界の違いをそう説明した。[11]
その間には、金を運用する経験もあった。祖父から受け継いだ資金を株式や新興企業へ投じ、他の人の資金も扱うようになる。ロンドンでCaedmon Groupという運用会社も立ち上げた。研究に没頭していた年月の外側で、投資と事業の世界にも足を入れていた。[5]
大学の同級生ティールは、オンライン決済会社PayPalを育てた後、大きな資金を手にしていた。そこで積み上がったのは、送金の技術だけではない。金を盗もうとする相手を、記録の中から見つける技術でもあった。[12][13]
05決済の不正から国家の情報へ
Palantirの始まり
2003年、Palantirが創業した。ティールがカープらと始めた新しい会社だった。PayPalでは、機械だけに任せれば、不正を働く相手に規則を読まれてしまう。人間が情報のつながりを追い、機械がその作業を広げる。人とソフトウェアを組み合わせる方法を、安全保障にも持ち込もうとした。[9][12]
2001年9月11日の同時多発テロを経験したアメリカでは、組織の壁を越えて情報を結びつけることが課題になっていた。手掛かりが別々の場所へ残っていても、誰も一緒に見られなければ、次の攻撃を防ぐ役には立たない。[13]
共同創業者のスティーブン・コーエンは、2004年半ばにティールから構想を聞き、大学の最終試験を終えると初期開発へ加わった。PayPal出身のネイサン・ゲティングス、ジョー・ロンズデールらもいた。技術の構想へ、大学を出たばかりの開発者たちが集まり始めた。[12][9]
カープがCEOになったのは2005年だった。ティールは会長として構想や資金を支え、カープは顧客や投資家、社員の前に立つ。世界を説明する理論を学んだ男が、世界を動かす組織へ技術を売る役割を引き受けた。[9]
06落書きされる事業説明
投資家の前でつまずく
会社が始まっても、資金は簡単には集まらなかった。2004年、有力投資会社Sequoia Capitalとの面談で、カープは自分たちの構想を説明した。本人の記憶では、聞き手のマイケル・モリッツは、話の大半をノートへの落書きに費やしていた。PayPalへ投資した名門でも、次の会社にも出資するとは限らなかった。[14]
別の投資家も出資は断ったが、In-Q-Telという投資組織を紹介した。アメリカの情報機関CIAが必要とする技術を育てるために作られた相手だ。カープたちは、そこへ製品の構想を持ち込んだ。[14]
In-Q-Tel側は、分析官が情報を扱う画面に強く関心を持った。要求を聞いたPalantirの面々は、その場で実装方法を考え始める。持ち帰った宿題を基にコーエンとゲティングスがデモを作り、数週間後に再び見せた。出資につながったのは、壮大な説明だけでなく、分析官が使える形への応答だった。[14]
分析官の隣へ行く
In-Q-Telは125万ドル(約1億円)を出資し、その後ティールも284万ドル(約4億円)を入れた。カープにとって大きかったのは、金に加え、CIAの分析官と一緒に働く道が開いたことだった。[14]
どんな記録を使い、何に時間を取られ、どこで手が止まるのか。顧客の現場へ行けば、説明会では出てこない問題が見える。画面を作ってから使い方を教えるのではなく、使う人の仕事を知り、その仕事へ画面を近づける。[15]
やがてPalantirは、技術者を顧客の現場へ送り込む働き方を育てた。Forward Deployed Engineer。アフガニスタンの拠点からアメリカ中西部の工場まで入り、現場の問題を解き、その経験を製品へ戻す技術者だった。[15]
07客が来るのに社員がいない
朝9時の空席
初めての政府との契約を目前に、別の問題が起きた。顧客が、会社のオフィスを見に来るという。Palantirは広い場所へ移ったが、まだ常勤の社員はひと握りしかいなかった。[16]
コーエンたちはIKEAへ行き、24時間で組み立てられるだけの机を買った。机が並ぶと、今度はその上に置くコンピュータが足りない。家電店でも買い足した。家具と機械はそろったが、座る人は急には増えない。[16]
見学は朝9時にした。政府の担当者が空いた机について尋ねると、コーエンは、シリコンバレーは朝9時にはまだ起きていないのだと説明したという。初期の取材に残ったのは、国家の機密を扱う会社にも、顧客を迎える部屋から急いで整える時期があったという場面だった。[16]
採用が進むと、カープは社内の動画で、顧客へ会社の仕事をどう伝えるかを話した。社員がつけた呼び名はKarpTube。CEOが繰り返していた説明を、新しい社員も各地の顧客へ伝える。技術者を増やしながら、何をする会社なのかを、新しい人へ何度も伝えていった。[16]
08記録をつなぐ商売
Gothamを動かす
2008年、Palantirは情報機関向けのプラットフォームGothamを公開した。別々の記録にある人物、場所、出来事を結びつけるソフトウェアだった。ある部署では人名、別の部署では取引先、さらに別の記録では住所。同じ対象だと分かれば、点だった情報が関係へ変わる。[17][18]
ただし、全部の情報を全員へ見せることが目的ではない。誰が閲覧できるのか、元の記録へ戻って確認できるのか、誰が何を操作したのか。その権限と記録も組み込む。情報を使いやすくすることと、無制限に使わせないことを、同じシステムで扱った。[18]
現場へ入る方法には代金がかかった。優秀な技術者を送り込み、時間を使い、試してもらう。契約が増えるたび、同じだけ人を増やすのであれば、巨大なソフトウェア企業にはなりにくい。顧客ごとの仕事を重ねながら、次の顧客にも使える製品を残せるか。長い赤字と、後の成長を分ける問題だった。[19]
09博士が上院で軽口をたたく
税金を追うソフトウェア
2010年8月3日、カープはアメリカ上院の公聴会へ出席した。議題は、新しい技術によって政府の仕事をどう変えるか。景気対策で巨額の金が動く中、その金の不正や無駄を探す仕事について話した。[20]
経歴紹介では、英語、ドイツ語、フランス語の話が出る。何語で証言するのかと聞かれたカープは、分かりにくい英語で、と冗談を返した。法律と博士号を持つCEOが、かしこまった会場でも少しだけ形を崩す。[20]
当時の社員は300人で、8割が技術者だと説明した。本人が強調したのは、捜査するのは自分たちではなく分析官だという役割だった。会社は、別々のデータをその分析官が使えるようにする。PayPalの不正対策から出発した方法が、国の支出を追う道具になっていた。[20]
10自社のロゴが流出した
WikiLeaks攻撃計画
2011年、ハッカー集団Anonymousが、セキュリティ会社HBGary側のメールを流出させた。表へ出た資料には、内部告発サイトWikiLeaksへの攻撃や、支援者への対抗策の提案があった。そのスライドには、Palantirのロゴが載っていた。[21]
偽情報を流す。サーバーを攻撃する。支持するジャーナリストへ圧力をかける。自由とプライバシーを守ると訴える会社の名前が、それを傷つける計画へ結びついた。標的として名指しされた中には、ジャーナリストのグレン・グリーンウォルドもいた。[21]
会社側は、HBGaryが作った攻撃的な内容が、若手技術者を通じてロゴ付きの資料へ入ったと説明した。会社として計画を承認したことは否定する一方、もっと早く関係を切るべきだったと認めた。[22]
カープの謝罪
カープは、HBGaryとのあらゆる接触を断つよう指示した。本人と会社を代表し、進歩派の団体や、特にグリーンウォルドへ公に謝罪した。攻撃的なサイバー能力を提供するつもりはないと、会社の立場も示した。[21]
自分の会社の関与について説明し、謝罪する。顧客の前で製品の価値を語る仕事とは違った。社員へ大きな裁量を与える会社で、引き受けてはいけない仕事をどう止めるのか。外の情報をつなぐ技術を売りながら、内部で作られた提案を把握し、線を引く力が問われた。[22]
11サンディの街で家を調べる
救援の地図
2012年、ハリケーン・サンディがアメリカ東海岸を襲った。ニューヨークの海辺の地区ロッカウェイでも、家や道路が被害を受けた。必要なのは、被災者が大勢いるという総数だけではない。どの家へ向かい、誰へ薬を届け、どこを後回しにできるのかという、次の行動だった。[23][24]

写真:Jocelyn Augustino / FEMA/出典/Public domain。表示用の縮小・圧縮。
医療支援団体Direct Reliefと、退役軍人らが参加するTeam Rubiconは、Palantirの技術を使って戸別の状況を確認した。現場の短い報告、地図、人口、停電、建物の被害。形式の違う情報をつなぎ、救援に使える形へ変えた。[23][24]
軍や情報機関で使う仕組みが、被災地で薬を運ぶ仕事にも使われる。会社の行き先は、最初の顧客だけでは決まらなかった。次に広がるのは、災害対応よりさらに大きく、長く続く民間企業の仕事だった。[13]
12油田の記録を結び直す
bpへ入る
2014年、エネルギー大手bpとの協力が始まった。掘削、生産、設備の状態。それぞれに記録はあっても、部門が違えば簡単には重ならない。Palantirは、ばらばらの数字を同じ生産活動として捉えられるようにした。[25]
bpは現実の設備をコンピュータ上へ写すデジタルツインなどを使い、設備を変えた場合の影響も調べた。2020年の投資家向け説明では、Palantirとの協力を含む上流部門のデジタル化が、生産拡大と費用削減を通じ、3年間で10億ドル(約1576億円)近い税引前の追加キャッシュに貢献したとした。ほかのデジタル施策も合わせた成果だった。[26]
国家の使命を語るだけでは、企業は毎年の利用料を払い続けてくれない。生産が変わり、停止が減り、手元に残る金が増える。その結果を顧客の仕事の中で示す必要があった。[25]
大口顧客が離れる
2016年には、Coca-Cola、American Express、Nasdaqなどの顧客を失ったと報じられた。高い料金や期待した成果とのずれが問題となり、社員が辞めることへの懸念もあった。カープは長く勤める社員の給与を引き上げ、引き留めに動いた。[27]
導入へ先に注いだ金と時間は、契約が続いて初めて取り戻せる。顧客が離れる横で、製品を知る社員まで失えば、次の導入にも響く。カープは、会社の使命を語るだけでなく、いま働く人が受け取る金を増やして、離職を食い止めようとした。[19][27]
13法廷から調達へ
陸軍の買い方を争う
この2016年に、陸軍を相手取った裁判も始まった。Palantirが争ったのは、DCGS-A2という情報システムの調達だった。陸軍はシステムの設計、開発、統合を担う相手を求めていたが、会社は、民間にある製品を検討する手順が足りないと訴えた。[1][2]
争いの鍵になった法律は、新たに一から作る前に、既存の商用製品で要求を満たせるかを調べるよう求めていた。製品を少し改良すれば届くのか。要求の一部を合理的に変えれば使えるのか。そうした選択肢が、調達の前に検討されなければならない。[2]
2016年にPalantir側が勝ち、2018年には控訴審も差し止めを維持した。陸軍は、既存製品を使う道を含めて調達を考え直すことになった。製品の優秀さを決める前に、製品を比べる場所へ立つための勝利だった。[2]
契約書へたどり着く
2018年、RaytheonとPalantirが、陸軍の情報システム調達で選ばれた。両社が競う契約枠は10年間で上限8億7600万ドル(約1380億円)。翌2019年、Palantirは次の段階のシステム供給でも前進した。[28][29]

写真:Fastily/出典/CC BY-SA 4.0。表示用の縮小・圧縮。切り抜き表示もCC BY-SA 4.0。
大学院で法律を学んだ男が、技術企業を率いて国の買い方を争い、その先で製品を売る。カープの会社に必要だったのは、分析する技術と、顧客の制度の中で待ち、交渉し、ときには戦う力の両方だった。[2][4]
14飛ぶ前に故障を探す
Foundryを広げる
2016年、民間企業向けのFoundryを投入した。工場、機械、注文、在庫。データを現実の対象へ対応させ、対象同士の関係や操作も扱う。製品の中でOntologyと呼ばれる仕組みは、眺めるための表を、業務を動かすための道具へ変えるものだった。[17][30]
注文が増えれば、どの設備に負担がかかるか。部品が欠ければ、どの仕事が止まるか。同じ対象を違う部署が違う名前で呼んでいても、つながりをたどれるようにする。技術者と顧客が積み重ねたこの土台が、後にAIを会社の仕事へ組み込む際にも使われる。[31]
Airbusから航空会社へ
2017年、航空機メーカーAirbusは、Palantirと開発したSkywiseを発表した。始まりは、Airbus内部の製造や技術、サービスを支える仕事だった。それを、機体を使う航空会社へ広げる。[32]
整備記録、部品の交換、センサー、運航計画。情報を合わせれば、機体が壊れてから直すだけでなく、故障の兆しを探せる。Airbusは航空機の仕組みを知り、Palantirは異なる情報を同じ基盤で扱う技術を持ち込む。製造した機体が顧客へ渡った後の仕事にも、共同で入っていく。[32]
その年6月、イギリスの格安航空会社easyJetが、先行して試した結果を発表した。Airbusと2年間かけ、運航を乱す100種類の主な技術的問題を洗い出す。2016年10月からは85機で試験を行い、そのうち3つの問題へ対象を絞った。[33]
データに表れた兆しを見つければ、まだ動いている部品を、通常の整備の時間に交換できる。easyJetは、故障が起きる前に14個の部品を取り外したと説明した。それにより、予定が乱れかねなかった2000人以上の旅程が、時間通りに進んだという。[33]
カープが売る技術を、空港で待つ客が知る必要はない。乗るはずの機体が直前に止まらなければ、予定はそのまま続く。航空会社側が示した成果は、難しい画面の操作回数ではなく、遅れを防げた旅程だった。軍や情報機関で知られる会社の仕事が、一般の乗客が使う飛行機へ入り始めていた。[33]
15議会で出た社員の名前
Cambridge Analyticaとの接点
2018年3月、Facebookの利用者データが選挙向けの分析へ使われた問題が、世界を揺らした。渦中の会社Cambridge Analyticaで研究を担ったクリストファー・ワイリーは、イギリス議会で証言し、Palantirの社員もデータの分析モデル作りを手伝っていたと述べた。[34]
同時にワイリー自身が、会社同士の正式な契約ではなかったと説明した。Palantir側も正式な関係を否定し、社員が個人の立場で接触したとした。[34][35]
カープがこの活動を指揮したという証言として、そのまま受け取れる話ではない。しかし、情報を扱う組織へ技術者が深く入る会社で、社員が社外へ持ち出す仕事をどこまで把握するかという問題は、再び表に出た。HBGaryの件で境界線を示した後にも、会社の名と社員の活動は、外から完全には切り離して見てもらえなかった。[34][21]
16食料支援へ入る
WFPとの提携
2019年2月、国連世界食糧計画WFPが、Palantirとの5年間の提携を発表した。世界各地へ食料や現金支援を届ける組織で、Foundryを使って情報を結びつけ、配送や費用の判断を改善する。[36]
食料は、買い集めるだけでは届かない。必要な栄養、輸送できる量、運べる道、保管できる期間、予算。その組み合わせを探しながら、離れた部署や現場が動く。Palantirの技術者も加わり、記録が組織をまたぐ際の壁を減らす仕事をした。[37]
一方、プライバシー保護団体Privacy Internationalは、支援を受ける人のデータをどう守り、誰が責任を負うのかと懸念を示した。人道支援を必要とする人には、通常の消費者のように、気に入らなければ別のサービスを選ぶ余地がない。効率を上げるための契約にも、その人々の情報を扱う責任がついていた。[38]
17ICEから離れない
会社が示した境界線
移民取締りへの関与は、カープが長く批判を受ける仕事になった。2020年、Palantirは人権団体Amnesty Internationalへの回答で、2011年からアメリカ移民・関税執行局ICEの捜査部門HSIと契約していると説明した。人身取引、児童搾取、資金洗浄などの捜査を支援する仕事だとした。[39]
会社は、HSIと、拘束・送還を担う別の部門を分けて説明し、家族分離政策を支持しないと表明した。しかしAmnestyは、どの部署へ売るかだけでなく、製品がもたらす人権上の危険を企業が調べ、抑える責任を問うた。[39][40]
カープはこの顧客を手放さなかった。政権の政策へ反対することと、政府の捜査を支える仕事をやめることは違うという立場だった。反対する人にとっては、その区別が現場での影響を十分に説明していない。契約の継続は、会社の信念を示すと同時に、批判が続く理由にもなった。[40][39]
18最初の契約は1ポンド(約211円)
病床と防護具を追う
2020年、パンデミックで病院の需要が急変した。空いている病床はどこか。マスクや防護具が不足するのはどこか。組織ごとに集めた記録は、時点も定義も違う。判断へ使う前に、まず同じ状況を見られる形へ直す必要があった。[41]
Palantirはイギリスの公的医療サービスNHSへ入り、感染対策のデータ基盤を支えた。最初の契約額は1ポンド(約211円)。後のBBCの取材で、カープは、まず製品を試してもらい、動くことを示すのが自分たちの売り方だと説明した。[42]
顧客が高額な契約を決める前に、会社側が人と時間を入れる。Palantirは開示でも、試験導入による獲得、その後の拡大、安定した利用という段階を分けていた。最初は損失を負担し、後から利用が広がることで回収する。無償に近い入口は、会社にとっても、続かなければ赤字だけが残る賭けだった。[19]
19上場前に同業者へ背を向ける
どちらの側に立つのか
2020年、Palantirは本社を、アメリカ西部・カリフォルニア州の技術企業が集まるパロアルトから、同国コロラド州の中心都市デンバーへ移した。カープは上場に向けた手紙で、技術業界との価値観の違いを打ち出した。ソフトウェアに詳しい人が、社会の仕組みや正義についても他の人より正しいわけではない、と。[43][19]
軍や情報機関へ売る自分たちの立場も、あえて隠さなかった。アメリカと同盟国を支える。都合のよいときも悪いときも、その顧客の側に立つ。カープは投資家へ、巨大な市場に加え、選ぶ相手と選ばない相手のある会社だと示した。[19]
これは顧客への約束でもあり、入社しようとする人や株を買う人への条件でもあった。世界中へ中立に売るという看板を掲げず、国家の力を支える仕事を、会社の正面へ置いた。[19]
17年目の市場
2020年9月30日、Palantirはニューヨーク証券取引所へ直接上場した。創業から17年。長く持ち続けた投資家や社員に、自分の株を市場で売る道が開いた。会社へ新株の代金を入れる方式ではなく、既存株主が保有株を売る仕組みだった。[44][19]
決算には、長い開発の重さも見えた。2019年の売上は7億4255万5000ドル(約1170億円)。2020年には10億9267万3000ドル(約1722億円)へ伸びたが、株式報酬費用などが膨らみ、純損失は11億ドル(約1733億円)を超えた。顧客が増えても、会社全体で利益を残す段階には届いていなかった。[45]
経営を自由に変えられるよう、創業者の強い議決権も残した。カープ、ティール、コーエンが長期の方針を保ちやすい構造は、外の株主から見れば、創業者の判断を覆しにくい構造でもあった。[46]
20会社を信じる人と株を売る人
個人投資家の主人公
上場後、Palantirには熱心な個人投資家が集まった。秘密めいた顧客、難解な製品、軍を支える会社。そして、整ったスーツ姿とは違うCEO。カープの言葉や身振りがネットで取り上げられ、製品だけでなく本人も、会社を信じる理由になっていった。[47]
本人は短期の株価へ合わせるつもりがない。短い値動きを望むなら別の株を選べばよいという趣旨の発言もした。何年も開発を続けた経営者の時間と、今日の含み損を見つめる投資家の時間は、そこですれ違う。[48]
11億ドル(約1733億円)という報酬の見出し
上場した2020年の報酬開示で、カープの合計額は10億9851万3297ドル(約1731億円)に上った。前年の1209万9977ドル(約19億円)から、一気に桁が変わった。長く未上場だった会社が市場へ出る年に、CEOの報酬も、外から比較できる数字になった。[49]
大半を占めたのは、株式報酬の2億9640万ドル(約467億円)と、ストックオプション報酬の7億9785万1743ドル(約1257億円)だった。これは付与時点で計算した会計上の公正価値で、合計額の現金がその年に本人の銀行口座へ振り込まれたという表ではない。報酬には、将来にわたって会社に関わり、段階的に権利を得る仕組みが入っていた。[49]
カープ向けの新しい株式とオプションの権利は、在籍などの条件の下で、2021年8月から四半期ごとに2.5%ずつ確定する設計だった。会社を長く率いることと、会社の株を持つことが結びつく。社員と投資家へ長い時間を求めてきたCEO自身も、今後の株価によって価値が変わる大きな報酬を持った。[49]
市場に出れば、製品がどの政府を助けるかに加え、会社が誰へどれだけ報いるかも問われる。熱心な株主が増えた会社で、創業者が保つ権限と、株式を通じて得る利益が、同じ開示書類に並ぶようになった。[49][46]
投資先が顧客になる
2021年、Palantirは、買収によって企業を上場させるSPACに関連した企業などへ資金を入れ、投資相手とソフトウェアの商業契約も結んだ。投資先の成長と共に製品を広げられる一方、投資相手が支払う利用料で売上が伸びる関係は、その持続性を問われた。[50]
2022年、新規の投資は縮小へ向かう。後に株主は、上場後の株売却や投資戦略を巡り、経営陣を訴えた。だが2025年4月、デラウェア州の裁判所は、インサイダー取引を合理的に推認させる具体的事実が足りないとして、株主代表訴訟を退けた。[44]
判決は、直接上場で既存株主が売ること自体は不自然ではなく、売却の多くは事前の計画や納税に伴うものだったと指摘した。大きな利益を得たというだけで、不正取引の根拠にはならない。市場での成功は、売る経営者と買う投資家を同じ場所へ集め、その利害の違いも目に見えるものにした。[44]
21デジタル企業が買った金塊
倉庫に5070万ドル(約79億円)を置く
2021年8月、Palantirの開示に、ソフトウェア会社らしくない買い物が載った。5070万ドル(約79億円)分の金塊。1本100トロイオンスの現物を買い、アメリカ北東部の外部施設へ保管した。必要な通知をすれば、会社は実物を引き取れる契約だった。[51]
顧客には、世界の出来事をデータへ変えて判断する道具を売る。その会社自身は、銀行口座や株だけでなく、倉庫にある金属にも資金を置いた。研究や採用、他社への出資へ使える金の一部を、持っておく資産へ替える。カープが率いる会社の財布には、次の製品を作る以外の選択も入っていた。[51]
ただ、この金塊をいつまでも抱え続けたわけではない。後の書類では、2021年中の購入総額は5090万ドル(約80億円)となり、2023年には全部を5110万ドル(約80億円)で売却したと記された。計上した売却益は軽微だった。壮大な危機を予言して巨利を得たという結末ではなく、1度保有した現物を、再び資金へ戻した取引だった。[52]
22戦時の首都へ入る
キーウでの会談
2022年6月2日、カープはウクライナの首都キーウで、大統領ウォロディミル・ゼレンスキーと会談した。ロシアの全面侵攻から3カ月余り。前日にポーランドとの国境を越え、陸路で首都へ向かったとTIMEは報じている。[53][54]
話し合ったのは、防衛、安全保障、デジタル化での協力だった。カープは現地に拠点を開き、ウクライナの専門家と共同開発する用意があると伝えた。どちらの側に立つかという上場前の宣言は、戦争中の政府を直接支える仕事になった。[53]
同年、投資家スタンレー・ドラッケンミラーとの対話で、カープは、勝つために戦うことと対話を続けることを両立させる立場を語った。相手の社会を丸ごと変えるのではなく、国境や規範を破れば押し返されると示す。軍へ製品を提供する判断を、本人はそんな戦争観と結びつけていた。[55]
カープの会社が速くするのは、情報を読む時間だけではない。その情報を基に人が決め、動くまでの時間でもある。戦時の顧客を支えることは、戦争についての意見を述べる以上に、どの側の行動を可能にするかという選択になった。[54]
23初めて利益が残る
20年目の黒字
2022年最後の四半期、Palantirは創業以来初めて、アメリカの会計基準GAAPで純利益を計上した。翌2023年2月の発表で、カープはこの節目を強調した。試験導入に先に金を出し、現場へ技術者を送り、長い契約を待った会社に、初めて決算の黒字が現れた。[56]
その四半期には、利息収入や日本の合弁事業に関する会計上の利益も寄与しており、営業損益はまだ赤字だった。だが、次の年には通期でも黒字になる。2023年、売上を増やしながら支出と採用を管理し、1年全体で利益を残した。[57][58][59]
顧客への初期投資を回収し、その先の利用から利益を残す。長く説明してきた事業の形が、ようやく通期の決算に表れた。その時期に、業界の外からも注目される技術の波が来た。生成AIだった。[19][58]
24警察が使う条件を裁く
フランクフルトへ返った問い
2023年2月、ドイツ連邦憲法裁判所は、ヘッセン州とハンブルク州での警察による自動データ分析について、法律の根拠に憲法上の問題を認めた。ヘッセンではGothamを基にしたHessenDATAが使われていた。[60][61]
警察が持っている記録でも、別々の目的で集めたものを結びつければ、元にはなかった情報が生まれる。本人が知らない関係まで推定できれば、権利への介入も深くなる。裁判所は、利用する条件と限界が明確でないことを問題にした。[61]
州の情報保護当局は、具体的な危険、情報の範囲、利用者を絞ることなどが必要だと説明した。問われたのは、警察にこの強い道具を使わせる法律の作り方だった。若いカープが社会の攻撃性と結びつきを研究した国で、今度はその会社が作る結びつきに、法の境界線が引かれた。[61][10]
25AIをチャットの外へ出す
AIPの投入
2023年4月、カープはAIPという新しいAIプラットフォームの投入を告げた。大規模言語モデルを、企業や政府の実務へ組み込むための製品だった。[62]
会社の注文が遅れている理由を知りたい。一般的な原因を列挙するだけでは、部品は届かない。どの在庫が足りず、どの工場を動かせばよく、誰の承認が要るのか。その会社の情報と、操作できる権限を使わなければ、次の仕事へ進めない。[63]
Foundryで積み重ねた、データを現実の対象へ結びつける仕組みがここへつながる。モデルへ何を見せ、何をさせ、どこで人が承認するか。流暢な答えを作る技術を、その組織の中で働かせるための土台を売ろうとした。[31]
顧客の問題で試す
2023年にはAIP Bootcampを始めた。顧客は自分の業務の問題を持ち寄り、技術者と短期間で形にする。完成したデモを眺めるだけでなく、自分たちの記録を使って、仕事をどう変えられるかを試す。[64][65]
かつては説明を理解してもらい、長い導入を待つ必要があった。その入口を、数日の実験へ縮めようとする方法だった。現場へ入り込む古くからの働き方を、多くの顧客が試せる形式へ変えた。[65]
食品大手Tyson Foodsの事例では、販売、生産、輸送の計画へFoundryを使った。顧客事例として公表された削減効果は24カ月で2億ドル(約315億円)。企業の担当者へ示すのは、AIの賢さだけではない。自分の工場や物流で、その金がどこから残るようになるかだった。[66]
26データは誰のものか
BBCで譲らないCEO
2023年10月、イギリスのBBCで、カープはNHSの患者情報について質問を受けた。情報は買わない、売らない、他社へ渡さない。政府のデータであり、自分が勝手に扱えるものではない。そう繰り返すカープへ、聞き手は、将来の利用を不安に感じる人のことを問い続けた。[42]
カープは、病床が使える理由や使えない理由を分かるようにし、何度も書類を書かせる負担を減らせると応じた。無料で試してもらう売り方が大型契約に有利なのでは、と問われても、そのやり方はほかの企業もすればよいと反論した。役に立つことを見せる、という姿勢は崩さなかった。[42]
10月29日の放送後、11月1日にはイギリスのAI安全性サミットで、副首相オリバー・ダウデンと会談した。顧客の技術担当者へ説明していた会社は、国際会議で政治家と技術の安全を語る会社にもなっていた。[67]

写真:Ben Dance / No10 Downing Street, UK Government/出典/CC BY 2.0。表示用の縮小・圧縮。
1ポンド(約211円)から3億3000万ポンド(約696億円)へ
2023年11月、NHS Englandは、Palantirを中心とする企業連合をFederated Data Platformの供給者へ選んだ。7年間で、関連サービスを含む上限3億3000万ポンド(約696億円)の投資計画。パンデミックで始まった関係が、医療サービスの日常の運用へ広がる。[68]

写真:Rathfelder/出典/CC BY-SA 4.0。表示用の縮小・圧縮。切り抜き表示もCC BY-SA 4.0。
病院に分かれた情報をつなぎ、待機患者、退院、物資の判断に使う。NHS側は情報を管理する責任や事業者の権限を定めた。一方、医師や技術の公正な利用を訴える団体には、民間企業への依存や患者の不信を懸念する声が残った。[69][42]
1ポンド(約211円)で入った顧客と、長い契約を結ぶ。カープが示したかった営業の成果そのものが、批判する側には、緊急時の低い負担から入って離れにくくする方法に見えた。同じ契約が、成功の証拠と警戒の理由を同時に作った。[42][42]
27支持を引っ込めない
イスラエルとの提携
2024年1月、Palantirはイスラエル国防省との戦略的提携を進めた。カープとティールが当局者と会い、戦争に関わる任務への技術提供を支える方針を示した。軍への仕事を謝罪するつもりはないと、カープはその後も語った。[70][71]
ガザで甚大な人道被害が生じる中、企業の関与にも批判が向かった。人権団体は、軍へ提供する技術がどんな危険を生み、会社がそれをどう評価して抑えるのかを問い続けた。[72]
カープは、支持へ反発して会社を去った社員がいることも認めた。政府の側へ立つ宣言は、顧客や支持者を強く引きつけると同時に、同じ会社で働けなくなる人も生む。経営者の思想は、壇上の言葉だけでなく、残る人と去る人を分ける会社の進路になった。[73]
28病床を空けても患者を運べない
看護師の予定もつなぐ
医療では、空きベッドが1つ見つかっても、それだけで患者を受け入れられない。その病棟に看護師は何人いるのか。次の勤務で欠員は出ないか。手術室を使える時刻と、手術の後に患者を見守る場所はそろっているのか。Palantirと協力した医療機関Cleveland Clinicでは、その調整を同じ画面で扱う仕事が進んだ。[74]
アメリカ中西部・オハイオ州のクリーブランドを中心とする大きな医療組織だ。2024年2月の病院側の説明では、病床と患者数を把握するHospital 360、勤務する人員を予測するStaffing Matrix、手術室の使い方を調整するOR Stewardshipが動いていた。[74]
それまでは、担当者が情報を別々に取り出し、何度も電話をかけ、臨時の打ち合わせで人をそろえていた。手術室の情報にも、Excel、付箋、電話、メールが入り交じる。画面をまとめるのは、同じ数字を別の場所へ書き写す時間を減らすためだった。看護部門の担当者は、予定が前もって分かれば、直前の変更や手作業の負担を減らせると説明した。[74]
NHSでカープが語っていた病床の運用は、こうした現場の調整に続いている。医師や看護師が、その日の仕事に必要な場所と人をそろえる。患者情報を扱う責任と、仕事を進めるための効用は、両方とも毎日の運用で試されていた。[74][42]
29戦争で残った地雷を追う
土地を取り戻す順番
2024年3月、ウクライナ経済省とPalantirは、人道目的の地雷除去を支える提携を結んだ。カープが戦時の首都へ入った後、会社の仕事は、戦争で危険になった土地を再び使うための計画へも広がっていた。[75]
同省が当時、地雷などで汚染されている可能性があるとした面積は15万6000平方キロメートル。危険が疑われる場所を全部同時に調べることはできない。どこへ先に専門家と機材を送るか。その判断を助けるため、調査で分かった状況、農地の価値、道路などへの近さ、専門の隊員と機械の配備を合わせて扱う。[75]
AIPを使った助手に期待したのは、その情報から優先順位や方法を検討する助言だった。ソフトウェアの画面で地雷が消えるのではない。危険な土地へ向かう作業員と、そこへ戻りたい住民がいる。その人々のために、限られた資源をどの場所へ使うかを決める道具にする計画だった。[75]
同年10月には、試験導入をウクライナ東部のハルキウ州で進める方針が発表された。イギリスとスイスの支援による事業では、まず3カ月かけて優先順位をつける仕組みを試し、食い違いを直す。全国へどう広げるかは、その試験を踏まえて決める。発表されたのは、全土の地雷除去を完了したという成果ではなく、危険な土地を解放する順番を検証する段階だった。[76]
30技術業界へ要求する
The Technological Republic
2025年2月、カープはニコラス・ザミスカと書いた『The Technological Republic』を刊行した。技術企業は消費者向けの便利さへ集中しすぎ、国家や社会の大きな問題から遠ざかったのではないか。政府と技術の関係を作り直すべきだという主張だった。[77][78]
カープは、自分の会社が軍や政府を支える理由を、技術業界全体への要求へ広げた。能力を持つ企業は公共の問題へもっと関わるべきだと訴える。その立場に賛成すれば、Palantirは必要な会社に見える。国家への協力を警戒する人には、企業が国の権力へ近づきすぎる道に見える。[78]
自分は何を作っている会社なのか。カープは製品の紹介だけで済ませず、社会の進む方向まで含めて説明する。そこまで踏み込むからこそ、支持する人も、反対する人も、製品の値段や性能だけでは彼を判断しなかった。[78][79]
31挑戦者が大きな供給者になる
NATOと陸軍の契約
2025年、北大西洋条約機構NATOの通信情報機関が、PalantirのMaven Smart System NATOを取得すると発表した。AIなどを使って軍の情報と判断を支えるシステムである。分析官の前で初期の画面を見せていた会社は、同盟の作戦を支える供給者へ進んだ。[80]
同年7月、アメリカ陸軍は、75件の契約をまとめるPalantirとの新しい契約枠を発表した。期間は最長10年、上限100億ドル(約1兆5760億円)。必要と予算に応じて製品を購入するための枠で、100億ドル(約1兆5760億円)を必ず発注する約束ではない。[3]
買ってほしい相手を訴えた2016年から9年。会社は、閉じた入口の外で待つだけの存在ではなくなっていた。政府の仕事へ深く組み込まれ、まとめて買う相手として選ばれる。契約が増えるほど、その技術を使って何をするかへの関心も強くなった。[3]
32送還業務の中へ進む
ImmigrationOS
2025年、ICEはPalantirへ、ImmigrationOSと呼ばれる仕組みの開発を発注した。送還に関わる情報、対象の把握、手続きの追跡などを支える仕事だった。2020年に説明していたHSIの捜査支援と、そのまま同じ範囲ではない。[81][39]
2026年1月、上院議員らがアメリカ国土安全保障省DHSの監察官へ書簡を送り、監視技術やデータ利用の検証を求めた。対象には、Palantirによる既存の事件管理システムの拡張も含まれていた。懸念の表明は、違法行為を認定した判決ではなく、政府内部から出た調査要求だった。[82]
会社はデータを買って売る業者ではないと説明する。しかし、所有権を持たなくても、その情報を速く結び、実務で使いやすくすれば、利用する組織の行動能力は変わる。Palantir自身も、人権団体への回答で、顧客選びと支援に道徳的責任が伴うと認めていた。[39][83]
33金は残るようになった
44億ドル(約6934億円)の事業
2025年の売上は44億ドル(約6934億円)、営業利益は14億ドル(約2206億円)となった。政府向けの24億ドル(約3782億円)に加え、民間向けも20億ドル(約3152億円)へ育つ。初めての四半期黒字から、継続して利益を残す企業へ進んだ。[84]
2026年に入っても成長は続いた。8月に発表した第2四半期の売上は19億ドル(約2994億円)を超え、アメリカの民間向け事業が拡大した。カープは、AIを使う組織が、自分のデータと業務を自分で制御する必要を訴えた。大規模言語モデルを持つ企業へ、そのまま運営の主導権を渡さずに済む製品を売ろうとしていた。[85][86]
会社の株は、かつて出資を断られた男を富豪にもした。だが本人の言葉は、成功に合わせて穏当にはならなかった。2025年の番組でも、会社への自信と批判への反発を、冗談や挑発と一緒に語る。国家の顧客にも株式市場にも、収まりのよいCEOの姿へ自分を整えるつもりはなかった。[79]
34雪の上へ出る
残り続ける個性
カープは太極拳とクロスカントリースキーを長く続けてきた。2018年の公式経歴にも載る趣味で、仕事の外では、雪の上で距離を重ねる運動を好んだ。株式市場で知られる前から、本人の生活にあった時間だった。[4][87]
長年投資したドラッケンミラーは、カープが会社の文化や人材の話になると、とりわけ生き生きすると語った。政府との契約を重ねる会社も、中では人が製品を作っている。採用し、辞めないようにし、批判を受けてもこの仕事を続ける人を集めなければ、契約書に書いたものは動かない。[55]
読み書きに苦しみ、ドイツ語の論文を書き、技術者の作った製品を政府へ説明する。合わない枠から次の場所へ移ってきたカープは、やがて国の重要な仕事へ深く入る会社を育てた。その間には、落書きされた面談も、顧客を失った年も、自社のロゴを巡る謝罪もあった。[4][14][27][21]
陸軍を訴えたとき、カープの会社は、製品を比べてもらうために戦っていた。今はその製品を通して、政府が人や組織を見つけ、判断し、動く。自分たちが選ばれる道を開いた男の前には、その力が誰へ向かうのかを説明する仕事が残っている。[2][3][82]
参考文献・出典 87件
本文の番号に対応する資料です。本人・関係者のインタビュー、当時の取材、企業の発表を参照しています。
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- US Federal Circuit — Palantir USG v United States, 2018-09-13 (Justia判決原文) ↩ 本文
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写真の作者・利用条件・撮影年は各画像の下に記載。取材資料と写真の出典は別々に確認できます。
※ 円換算は2026年11月2日確認のWise表示値(1米ドル=157.6円、1英ポンド=211.0円)を使用。取引当時の為替や物価・購買力を再現するものではありません。 為替出典:USD / GBP
本文更新:2026-11-02



