THE STORY
ゴータム・アダニの物語
選んだ道。その先で、起きたこと。
01小さな石で最初の取引をする
商人の家を離れる
1962年6月24日、ゴータム・アダニはインド西部・グジャラート州の繊維産業の街、アーメダバードに生まれた。父は繊維や商品を扱う商人だった。家には、物を仕入れ、次の相手へ売って暮らす仕事があった。だが、アダニはその仕事をそのまま継ぐために家へ残らなかった。[1]
地理データ:Natural Earth(パブリックドメイン)。現代の地理と都市の代表位置。出生宅・移動経路ではありません。編集部作図。
1978年、16歳でインド西部の商業都市Bombay、現在のムンバイへ移った。Mahendra Brothersで就いたのは、ダイヤモンドを選別する仕事だった。港も発電所も持たない少年が、まず見極めたのは、手元に載る小さな石だった。[2][3]
後に本人が語った最初の商売には、日本人客が登場する。取引をまとめて得た仲介手数料は1万ルピー(約1万6560円)。物を見極め、相手をつなぎ、その間で自分が稼ぐ。巨大グループの会長になっても、最初の取引として覚えていたのは、この金額だった。[3]
口約束と原料不足
父の商売には、別の記憶が残った。先渡しの取引を、紙にした契約より口頭の約束で進める。父や近所の人が支え合う暮らしの中で、アダニは信用を学んだと語っている。大学を終えず実務へ入ったことについても、後には、大学で得られたはずのものがあると認めた。若くして働いた経験を、ただ成功の条件として自慢してはいない。[4]
1980年代初め、兄が買ったアーメダバードのプラスチック工場を手伝うために戻る。そこでは、機械と人をそろえても原料が足りなかった。ほかの小さなメーカーも同じ不足を抱えている。必要な物を輸入して届ければ、1つの工場だけでなく、別の工場にも売れる。アダニは製造の現場から、その手前の調達へ仕事を広げた。[5]
1985年、輸入の規制が緩むと、仕入れられなかった原料を国外から買う機会が広がった。2024年の講演で本人は、この変化が小規模な工場へ原料を届ける事業のきっかけだったと説明する。23歳の頃にはその取引が育っていた。[6]
1988年、輸出入を扱うAdani Exportsを始めた。後のAdani Enterprisesである。ダイヤモンドの仲介で得た手数料から、工場に必要な物を国境の向こうから運ぶ商売へ進んだ。[2]
歯科を学んだ妻
結婚相手プリティとの縁は、両家の年長者が結んだ。彼女は歯科を学び、結婚後に卒業した。夫が貿易で仕事を広げている横で、妻にも専門の勉強と、その後の働き方があった。[7]
後にAdani Foundationを率いるプリティは、2019年の取材で、仕事に行き詰まると夫が励まし、違う方法も提案すると語った。財団では学校や診療に加え、働くための技能も重視した。夫の設備が大きくなる土地で、人々がどんな仕事を得られるか。妻は、その側から地域に関わるようになる。[7]
02塩田の計画が壊れる
50対50から89%へ
1990年代、アダニは穀物などを扱う大手Cargillと、塩の事業を考えていた。場所はインド西部・グジャラート州の、広い塩の大地が続くカッチ地方。塩田を作り、海へ搬出するための桟橋を設ける共同事業だった。2007年の物流専門誌の取材は、話の始まりを1991年と記している。[5][8]
ところが、折半で詰めた案を、相手が変えようとした。外国企業が港を全面的に保有できる制度の変更を受け、Cargill側が89%を求めたという。アダニは、少数株主としてそのまま加わる案を受け入れなかった。大企業の出資と仕事を得る計画は、解消した。[8][5]
それでも、海沿いの土地と、塩を外へ運ぶための桟橋の許可は残った。大きな取引相手を失った後、港があれば荷物を外へ出せるという着眼を、ほかの商売へ使う道が生まれる。[5]
そこへ、グジャラート州が港湾を民間へ開く流れが来る。塩を積むための場所なら、ほかの荷物も扱えないか。アダニは残った土地を商業港へ向けた。塩田にならなかった計画から、会社で最も大きく育つ事業の1つが始まる。[5][6]
1994年に株を売る
1994年9月、Adani Exportsは株式の公開募集を行った。会社の記録には126万1900株、額面10ルピー(約16円)に140ルピー(約231円)を上乗せした募集価格が残る。取引先だけでなく、株主からも資金を受け取る会社になった。[9]
売買だけの商売では、商品の値動きに利益が振り回される。アダニは、自分たちで実物の資産を持つ道を探した。1995年の州の港湾政策は、そこへ進む機会になった。商品を仕入れる会社から、商品が通る場所を作る会社へ。必要な金額も、工事が収入に変わるまでの時間も変わっていく。[6]
03港を作った歯科医
ムンドラに船が来るまで
インド西部・グジャラート州のアラビア海に面するムンドラで、計画を動かす重要な人物がマラヤ・マハデビアだった。彼にも歯科医の経歴がある。港湾一筋の専門家だけを並べて始めた事業ではなかった。[10]
岸壁を作り、機械を置き、人が働き、船の荷物を受け取る。その現場へ、マハデビアが入った。1998年10月7日、最初の船MT Alphaが接岸した。塩の桟橋を考えた場所へ、実際の貨物船が来た。[11]
しかし、船から降ろした荷物を岸壁に積むだけでは、内陸の客へ届かない。港の先を道路、鉄道、パイプラインへつなぐ必要があった。原料不足で困った兄の工場と同じように、港を使う会社にも、必要な物が自分の所まで来なければ意味がない。[12]
朝4時から悪路を通う
港と結ぶ鉄道の用地取得が訴訟で止まった。アダニ自身が地方の判事へ会い、必要性を説明した。2011年の取材は、64キロの路線を18か月で建設した経緯を記録している。[13]
工事には長い時間がかかる。それを短期の資金で支えたため、資金繰りが苦しくなったことも本人は認めた。4年以上、隔日で朝4時に起き、アーメダバードから悪路を数時間かけて港へ通ったという。海へ船が来るようになっても、金と荷物が次の場所へ流れるまで、現場を離れられなかった。[13]
2001年2月17日には、州政府やGujarat Maritime Boardとの30年の運営契約が始まった。長く使う岸壁と、その先へ延びる道が、会社の稼ぐ土台になっていく。[12]
04地面が揺れて電話がつながらない
プリティが被災地へ入る
2001年1月26日、グジャラート州を大地震が襲った。港のあるカッチ地方も、被災地となる。アーメダバードにいた妻プリティは、ムンドラの事務所へ連絡を取ろうとした。しかし通信が途切れ、つながるまで24時間かかったと、後の取材で振り返っている。[7]
彼女は州西部の被災都市ブジへ入り、1か月とどまった。行政や地元の団体と組み、がれきを片づけ、住む場所や学校を用意する。救援から復旧へ仕事が続くと、必要なのはその日の食事だけではなくなった。プリティによれば、その後の活動は2年近く続いた。[7]
会社の後年の記録では、アーメダバード、ブジ、ムンドラへ調整の拠点を置き、食料や水、医療を届けた。救急車だけでなく、掘削機、クレーン、がれきを運ぶ車、金属を切る道具も出したという。港の工事で物を動かす機械が、人を救い、壊れた街を片づける側へ回った。[14]
アダニたちが事業を作ろうとしていた土地で、人々が家や生活を失った。その後も企業の本社から寄付を出すだけでは終わらず、現地で働く組織が必要になった。港の建設と並んで、プリティが率いる財団の仕事も、地域の暮らしへ深く入っていく。[14][7]
05高い授業料を払う
辞表を破った取引
会社で若いトレーダーがコーヒー先物の判断を誤り、6000万ルピー(約9936万円)を失った。本人は辞表を持ってきた。人事を担ったサウラブ・ディクシットの回想では、アダニはその辞表を破り、経験を会社で生かすよう引き留めた。[13]
社員は残った。翌年には1億2000万ルピー(約1億円)近い利益を出したという。金を失った人を辞めさせれば、その損だけが会社に残る。アダニは、判断を誤ったその人へ、次の取引も任せた。[13]
2時間で海へ沈む
1999年、ムンドラでは波を抑える実験用の設備を試した。浮かせた構造物で岸壁に来る波を弱めれば、船が利用できる日を増やせる。費用は4000万ルピー(約6624万円)だった。だが、波の向きへの見通しが足りず、設備は約2時間で沈んだ。[15]
マハデビアによれば、アダニは担当者を責めなかった。その人は退職まで会社に残った。海へ消えた設備の費用と、試した社員のその後を、同じようには切り捨てなかった。[15]
別の現場でも、やり直しは起きる。内陸のTirodaの発電所では、動き始めて数か月で冷却水の配管に問題が見つかった。全面交換に必要なのは1億5000万ルピー(約2億円)。報告を受けたアダニは、交換する方を選んだ。作れば終わりではなく、失敗した設備へ、さらに金を出さなければならない場面があった。[15]
口約束の後に届いた小切手
取引相手のアトゥル・チャトゥルヴェディも、忘れられない支払いを語っている。1994年、食品会社SM Foodsで働いていた彼は、アダニと大豆の取引を話し、3000万ルピー(約4968万円)の前払いを求めた。まだ正式な契約を結ばず、SM Foodsの親会社も資金不足だったため、話をそのままにしていた。[15]
すると勤務先へ、自分宛ての封筒が届く。中にはAdani Exportsからの3000万ルピー(約4968万円)の小切手があった。確認のためアダニへ連絡し、取引を実行した。その相手は、1997年にはアダニ側へ移り、農産物や食品の事業を育てる人になる。[15]
06翌朝まで戻れなかった
誘拐とTajホテル
1998年1月、アダニは同行者とともに誘拐された。本人は後のテレビ取材で、翌日に解放されたと話している。解放までの詳細や支払額を本人は明らかにしていない。[16]
2008年11月26日には、ムンバイのTajホテルで商談中、テロに遭遇した。本人が語った経緯では、従業員の案内で地下や安全な場所へ移り、翌朝に救出された。[16]
仕事で訪れたホテルから、その日のうちに帰れなくなる。そこで頼ったのは、現場を知る従業員の誘導だった。港や工場で大勢を動かす側にいた男が、その夜は、ほかの人の案内で安全な場所へ移る。翌朝、彼はホテルを出た。
07石炭を運び電気を売る
港の会社が発電所へ
2007〜2008年度、ムンドラの港会社は売上84億6100万ルピー(約140億円)、荷扱い3000万トン近くへ育った。株式公開には募集の116倍の応募があった。塩の事業から残った場所が、独立して資金を集める上場企業になった。[12]

写真:Vijay8808/出典/CC BY-SA 4.0。表示用縮小。写り込む商標の権利は各権利者に帰属。
港で大量の石炭を扱えれば、その燃料で電気を作る仕事にもつながる。2009年7月、ムンドラで最初の330メガワットの発電設備が動いた。次の増設と、ほかの州の発電所も計画に並ぶ。[17]
同年のAdani Powerの公開募集は、1株100ルピー(約165円)、総額301億6520万ルピー(約499億円)。動き始めた設備を見せながら、まだ工事中の部分へ資金を呼び込んだ。インド西部・マハラシュトラ州の内陸にあるTirodaにも、大きな発電所が加わる。[17]
契約で固めた売値が重荷になる
2010年の取材でアダニは、発電量の80〜85%を長期契約で押さえる方針を説明した。電気が足りない市場でも、すべてをその時々の相場へ賭けず、売り先を先に確保する。同時に、港と内陸の貨物拠点も組み合わせようとしていた。[18][18]
ところが、輸入元インドネシアで石炭価格を国際相場に沿わせる規則が入り、燃料費が上がった。電気の売値を長く固めた契約では、仕入れの上昇を自由に上乗せできない。グジャラート向けの契約では、1キロワット時2.3495ルピー(約3円)が争いの数字になった。[19]
Adani Powerは救済を求めた。2017年、インド最高裁は、外国の法変更や燃料高だけでは当該契約の不可抗力にならないと判断した。インド国内の供給政策変更による救済は別に検討する。収入を安定させるはずの長期契約が、燃料の値上がりを受け止める逃げ道も狭くした。[19]
08海岸で問われる
マングローブと漁業者
ムンドラが大きくなるほど、周りの海岸への影響も問われた。インド環境森林省が置いた調査委員会は、2013年の報告で水路やマングローブなどに関する違反を指摘した。[20]
政府の同年12月の議会答弁には、修復のための基金、マングローブ保全、水路と地下水の監視、漁業者への対応などが並ぶ。省は会社側と州の海事当局へ通知や指示を出した。貨物を扱うために変えた海岸には、その前から暮らしや仕事があった。荷扱いが増えた数字と同じ場所で、別の損失が調べられた。[20]
東海岸にも港を持つ
2014年、Adani Portsは、インド東部・オディシャ州のDhamra港を取得することで合意した。Tata SteelとL&Tが持っていた港で、取引規模は550億ルピー(約910億円)。ムンドラの増設だけでなく、動いている別の港を買って広がる。[21]
Tata Steelには同じ州の製鉄所計画があり、港を売っても貨物を運ぶ客として残る。買う側は設備と、その設備を使う仕事の流れを受け取った。西から東へ、アダニの港は国内の海岸を結ぶようになる。[21]
09オーストラリアの長い工事
99年の積出施設
2011年、アダニ側はオーストラリア北東部・クイーンズランド州のAbbot Pointで、石炭積出施設の99年のリース契約を結んだ。取引額は18億2900万オーストラリアドル(約2026億円)。土地や固定設備の所有は州に残り、長期に運営する権利を引き受けた。[22]
掘った石炭をインドまで運ぶには、鉱山だけでは足りない。線路を通り、港で保管し、船へ積む。ムンドラでは船の先の陸をつないだ。今度は海の向こうで、船へ載せる出口に資金を置いた。
条件が付いたCarmichael
Carmichaelの石炭事業は、承認に長い時間を要した。2015年の豪州政府の承認には、水や絶滅危惧種の保護など36の条件が付いた。着工は2019年6月。採掘を始めるまでに、資金だけでなく、許可とその条件を満たす仕事が続いた。[23][24]
港の浚渫土砂も争点になった。会社は海へ投棄する案から、陸上で処理する方針へ変えた。2014年の取材で本人が挙げた追加費用は2500万〜3000万ドル(約39億円〜47億円)。反対運動は銀行にも働きかけ、資金調達にも影響した。許可を得れば、周囲の反対も資金の問題も消えるという事業ではなかった。[25]
工事の土地へ戻る人々
Carmichaelの土地をめぐっては、そこで暮らしてきた先住民の権利も争われた。ワンガンとジャガリンゴウの人々の中には、鉱山事業の土地利用合意を支持する側も、認めない側もあった。州政府は、多数が承認した合意に基づくとして、2019年に採掘地の先住権を消滅させた。[26]
反対するエイドリアン・バラガッバと息子は、その場所へ戻り、儀式のためのキャンプを設けた。会社側の警備員とのやり取りが撮影され、裁判所では、許可なく土地へ入ることなどを禁じる暫定命令が出た。鉱山を作る側からは、工事の敷地への立ち入りだった。反対する人々からは、自分たちの土地で文化を続ける行為だった。[26]
2022年の現地取材でも、キャンプは続いていた。バラガッバらは州の人権法に基づく文化的権利を使おうとし、警察からは2021年に遺憾の意を示す手紙が来たと語った。一方、現地会社Bravusは無許可のキャンプだとし、伝統的所有者の多数が鉱山を支持し、ともに文化遺産を守っていると反論した。[27]
石炭層へ到達したという発表の後も、同じ土地には、利益や雇用以外のものを守ろうとする人がいる。反対の声を1つにまとめることも、合意した人々をいなかったことにすることもできない。工事を続ける会社は、その双方のある場所で操業することになった。[27]
最初の石炭を船へ
2021年6月、現地会社Bravusは最初の石炭層に達したと発表した。長い承認と約2年の工事を経た節目で、CEOデビッド・ボショフは2600人以上の働き手を挙げた。計画が会社の意思で続いても、掘れる現場にするには、その人々の工事が要った。[28]
12月には、最初の船積み用の石炭がクイーンズランド州の港町ボーエンにあるNorth Queensland Export Terminalへ集められた。旧Abbot Pointである。新しい列車の試運転や調整も進み、鉱山から鉄道、積出施設までがつながっていった。12月29日の発表は、最初の輸出用貨物を用意した段階を記録する。[29]
石炭があると分かった土地から、石炭が船へ向かう場所へ。買収と承認を見出しにした日々の後にも、実際の荷物を動かすまでの年月が残っていた。
10太陽電池250万枚を並べる
作る速さとつなぐ難しさ
2016年、インド南部・タミルナドゥ州の農村地域Kamuthiで、648メガワットの太陽光発電所を披露した。会社発表では、8か月の建設に約8500人が関わり、250万枚のパネルを設置した。燃料を運んで燃やす発電と違い、広い土地へ大量の機器を並べる。[30]
ただ、並べれば全部の電気を売れるわけではなかった。業界メディアMercomによると、3月に360メガワット分が動いた後、残る288メガワット分は送電網へ送り出す問題で遅れた。9月の発表で648メガワット全体の接続が確認された。[31]
港の岸壁から内陸へ線路を通したときと同じく、発電所にも、その先が要る。工事が速く終わっても、電気が外へ出なければ設備を使い切れない。石炭と太陽光の両方へ広がるグループは、別の方法で同じ接続の難しさに向き合った。
11人が通る場所へ入る
2019年の空港入札
2019年、Adani Airport Holdingsを設立し、6空港の運営入札で最高額を提示した。続いてムンバイ空港の経営にも入る。貨物を運ぶ港から、人が行き来する空港へ、扱う場所が増えた。[32]

写真:Chainwit./出典/CC BY-SA 4.0。表示用縮小。
海辺の荷物だけでなく、ターミナルを通る乗客も、グループの設備を利用するようになる。1つの会社が全国の空港を直接所有する形ではなく、会社と持分と長期契約が重なる。港で作った運営の事業は、陸の入口でも広がっていった。[32]
フランスの株主を迎える
2021年1月、フランスの大手エネルギー企業Totalは、Adani Green Energyの20%を取得すると発表した。稼働中の太陽光設備の共同保有も合わせ、投資額は25億ドル(約3940億円)。アダニの発電事業へ、海外の大手が株主として入った。[33]
借りた金の返済だけでなく、事業の成果を一緒に持つ相手になる。Totalには取締役会の席も用意された。石炭のための港を豪州で借りたグループが、再生可能エネルギーではフランスの資金と組む。[33]
島のターミナルをつなぐ
同年3月、インド南方の島国スリランカの商業都市コロンボで、新たなコンテナターミナルを作る計画に加わった。Adani Portsが51%を持ち、John Keells Holdingsと現地港湾当局が参加する。建設し、運営した後に引き渡す35年の契約だった。[34]
コロンボはインドのコンテナの積み替えにも使われる。国内の港で受け取った荷物が、その先で使う場所にも入る。ムンドラから始まった事業が、海を越えた貨物の途中まで延びていく。
12次世代も大きな買収に立つ
地中海の港とセメント
2022年7月、イスラエル北部の港湾都市ハイファの民営化入札で、Adani Portsと現地の物流・化学品企業Gadotが勝った。比率は70対30。提示額は41億シェケル(約2096億円)で、発表時には11億8000万ドル(約1859億円)に相当した。契約は2054年までの運営権を含んだ。[35]
前に立つ経営者の1人は息子カランだった。地元の会社と組み、インドの港との航路を育てる可能性を語る。父が始めたインフラの仕事を、次世代も長期の投資として引き受けた。[35]
同年9月16日、HolcimはインドのAmbujaとACCの持分売却を終え、64億ドル(約1兆86億円)の現金を受け取ったと発表した。アダニ側が示す取引全体の額とは範囲が違うが、売り手へ渡った金だけでも大きい。アダニは新しくセメント工場を1基建てるのでなく、すでに販売網を持つ企業の経営を引き受けた。[36][36]
Holcimは得た資金を別の地域や建材へ回す。アダニは、インドの道路や住宅、工場を作る需要へ入る。港と空港と電力の横に、その建設で使われる材料の会社が加わった。
ニュース局へ通じた金融契約
同じ2022年、グループはテレビニュースのNDTVへ入った。入口になったのは、昔の融資に由来する権利だった。取得したVCPLは、創業者側の持株会社RRPRの株式を受け取る権利を持つ。その行使で、NDTVの29.18%を間接保有する位置へ進んだ。[37]
さらに公開買付けを進め、12月30日には創業者のプラノイ・ロイとラディカ・ロイから27.26%を取得。間接保有を含む持分は64.71%になり、夫妻には合わせて5%が残った。[38]
NDTVは政権に批判的な報道でも知られていた。首相ナレンドラ・モディとの関係が注目される実業家による取得は、報道の独立性を懸念する声を招いた。アダニ側はニュースへの投資と事業拡大を掲げたが、誰が放送局を持つか自体が、視聴者や記者にとって問題になる買収だった。[39][37]
取得時の開示では、NDTVの2022年3月期売上は42億1000万ルピー(約69億円)、純利益は8億5000万ルピー(約14億円)で、有利子負債はわずかだった。3つの全国テレビチャンネルと、オンラインの視聴者がいた。会社を買えば、設備だけでなく、その人々が何を信じて見るかも引き継ぐことになる。[38]
132000億ルピー(約3312億円)を受け取らない
2023年1月の報告書
2023年1月、空売り投資を行うHindenburg Researchが、アダニの企業群の株価操作や会計などに関する疑惑を公表した。アダニ側は否定し、相手が株価下落から利益を得る立場であることも指摘した。大きな設備を持つ会社の説明が、市場で激しく疑われるようになった。[40]
1月31日のAP通信は、報告の後に会社群の時価総額が680億ドル(約10兆7168億円)縮んだと伝えた。1週間にも満たない値動きで、長く積み上がった株式の評価が崩れる。翌2月1日の取引では、Adani Enterprisesの株価が28%下がった。疑惑への回答を出しても、市場の売りは止まらなかった。[41][42]
2023年2月1日、Adani Enterprisesは追加公募を撤回した。規模は2000億ルピー(約3312億円)。募集は埋まっていた。それでも株価の大きな変動を受け、投資家の金を返し、申し込みで拘束された資金を解除する判断をした。[43]
新しい設備や事業へ使うはずの金が、会社に入らない。応募を得るところまで進んだ募集を、自分たちで止める。アダニは、受け取れるはずの資金をそのまま手元へ置く道を選ばなかった。[44]
2月8日の会長室
会社の内側の様子は、会長室の戦略を担うアマン・シンが、翌年の社員向け講演で振り返った。2月8日、不安を抱えて会ったシンに、アダニは株価の動きと実際の事業を切り分け、株価に連動する資金調達を外す方針を説明したという。[45][45]
シンが挙げた計画の規模は1700億ルピー(約2815億円)。株価が下がると追加担保を求められる形から離れ、相場の下落が資金繰りへ連鎖するのを抑える。声明で反論する横で、金の借り方そのものを変える仕事があった。[45]
シンは、人事評価を終え、4月には業績連動の報酬も払ったと語った。借入を解消し、社員への支払いを続ける。シンが記憶していたのは、反論の声明の裏で進めた、そうした会社の運営だった。[45]
買いに来た別の投資家
2023年3月2日、GQG Partnersが上場4社の既存株を買った。総額18億7000万ドル(約2947億円)、1544億6000万ルピー(約2557億円)の取引だった。港湾、再生可能エネルギー、送電、Adani Enterprisesに分かれる。[46]
買い手のGQGのラジブ・ジェインにも、別の投資家への説明が要った。GQGは預かった顧客の資産を運用する会社であり、騒動のさなかに大きく買えば、自分たちの判断も問われる。3月にはオーストラリアの顧客や投資家と会い、この投資についても話す予定だと会社は説明した。[47]
ジェインは取材で、安くなった評価と、今後の成長、収益の見通しを買う理由に挙げた。疑惑への同意や反論を口にするだけでなく、どの事業なら自分の顧客のお金を置けるかを選ぶ。批判的な報告がまとめて扱った企業群の中でも、GQGが最初に買ったのは4社だった。[48][46]
これは中止した公募をそのままやり直したのではない。新株発行で各社へ金を入れる増資ではなく、既存株主の持分を売る取引だった。[46]
14住んでいる街を作り替える
ダラヴィの家を1軒ずつ調べる
株価の危機と同じ2023年、別の巨大な仕事も動いた。アダニ側は、ムンバイの人口が密集する地区ダラヴィの再開発を担う。空いた土地へ港や発電所を作る計画とは違う。すでに人が住み、働き、店や工房を動かしている街を変える仕事だった。[49]
州の記録では、7月にAdani Propertiesを主導する民間事業者に選び、官民の特別な事業会社で進める形とした。民間側が80%、行政側が20%を持つ。道路や住宅を作るための土地には、鉄道側から渡される隣接地も組み込まれた。[50]
しかし新しい住宅へ入れる人を、最初から一律に決められるわけではない。2024年3月、現地調査が始まった。家や店舗を確かめ、誰がどの条件に当てはまるかを調べる。家の存在した時期、地上階か上の階か、住居か商売の場所か。それぞれの条件が、次に受け取れる物を変える。[51]
公表された説明では、対象となる住居の人は、地区内で床面積350平方フィートの住宅を無償で受け取る計画だ。一方、上階の住居や、2011年1月1日より後にできた住居などは、同じ対象にはならない。地区外に300平方フィートの手頃な賃貸住宅を用意し、将来買い取る選択肢を持たせる制度が示された。[51]
同じ地区に住んでいても、元の場所へ戻れるか、その外へ移るかが分かれる。図面の上で住宅の数を増やすことと、今の暮らしをどうつなぐかは、同じ問題ではない。街を調べる調査は、建物の寸法だけでなく、人がどこで次の生活を始められるかを決める入口になった。[50][51]
職人が守りたいのは家だけではない
2024年に現地を取材したLe Mondeは、陶器を作る職人の声も伝えた。家には権利の書類があり、電気代も税も払っている。自分の工房から動かないと話す人がいた。住む部屋を新しい部屋へ置き換えるだけでは、窯や材料を扱う仕事がそのまま続けられるとは限らない。[52]
陶工側の代表は、別の場所へ空間を用意すると言われても、どこなのか分からないと語った。街を変える側が住宅の数を数える時、そこで働く人は、次の日に自分の手で何を作り、どこで売れるのかを考える。その違いが、同じ再開発への期待と反対を分けていた。[52]
前の落札者も争う
この事業には、別の入札者からの訴えもあった。以前の入札で最高額を出したドバイのSecLinkは、旧入札の取り消しと新しい条件がアダニ側のためだったと主張した。州政府とアダニ側は否定する。[49]
2024年12月20日、Bombay High Courtは、その落札への異議を退けた。条件が特定の1社のために作られたとはいえないとの判断だった。SecLink側の弁護士は上級審へ進む考えを示した。裁判所で争われた入札の手続と、住民1人ずつの移転や権利の扱いは、別の仕事として続く。[49]
ダラヴィに住む人の家を変えるという約束は、どの会社が選ばれたかという発表では終わらない。誰に何を渡すかの確認から、移る間の暮らし、その後に働く場所まで、人の時間を動かす必要がある。若い日に家を出てムンバイでダイヤモンドを選別した男のグループが、今度は、その街で暮らす人々の足場を作り替える側へ回った。[50][51]
15国境の先でも仕事は動く
バングラデシュへ電気を送る
2023年7月、アダニはバングラデシュの首都ダッカでハシナ首相と会った。インド東部・ジャールカンド州のGoddaに作った火力発電所から、本格的な供給を始めた節目だった。2基で1600メガワットの設備を持ち、契約上は1496メガワットを届ける。[53]
105キロの専用送電線を通し、25年の契約で売る。建てる国と使う国が違う発電所には、燃料や機械の運営に加え、相手の電力会社からの支払いと国境をまたぐ供給が続く。貨物を運ぶ港から始まった仕事は、電気でも国の境を越えた。[53]
代金が届かず供給を絞る
長い契約で外国へ電気を売る仕事は、発電所の完成後に別の危機を迎えた。2024年10月31日、外貨不足に苦しむバングラデシュの支払いが遅れ、Adani Powerは供給を半分に減らす。翌11月1日には発電機1基が止まった。使う側の国に電気が要っても、売る側には燃料代や借入の支払いが続く。[54]
同年12月のReuters取材では、バングラデシュ側は未払額を約6億5000万ドル(約1024億円)とし、Adani側の関係者は約9億ドル(約1418億円)と説明した。額のとらえ方にも差があった。冬の需要が下がる中、バングラデシュは、その後も半分の供給にとどめるよう求める。会社側は、支払いの遅れが運営を続けるうえで大きな懸念だとした。[55]
2025年2月には、バングラデシュの電力当局が、月8500万ドル(約133億円)を払いながら滞納を減らし、もう1基からの供給も再開してほしいと求めた。ところが再起動を予定した日にも、大きな振動で作業を進められなかったという。相手からの送金と、機械を動かせる状態の両方がそろって、初めて電気は国境を越える。[54]
3月には全面的な供給が戻った。バングラデシュ側の電力当局トップは、定期的な支払いを再開し、必要な電力を受け取っていると説明した。設備だけでも、送金だけでも進まなかった取引が、両方そろって動き直した。[56]
料金の決め方にも対立があった。バングラデシュ側は契約を調べ、Adani側は契約上の義務を果たしてきたと説明する。25年の契約は、将来の収入を約束するだけの紙ではなかった。政権や外貨事情が変わった後も、誰がどの金額を負担するかを交渉し続ける関係だった。[54]
乾いた土地の清掃ロボット
2024年3月、グジャラート州の乾燥地帯Khavdaでは、太陽光1000メガワットが動く段階へ進んだ。約240万枚のパネルを設置したが、全体は30ギガワットを目指す計画の途中だった。[57]
ほこりが積もれば発電量が落ちる。大量の水で洗えば、水の調達が重くなる。会社は水を使わない清掃ロボットを導入する方針を示した。土地にパネルを並べるだけでなく、その表面をどう保つかまで、巨大な設備の性能に関わった。[57]
港へ来た原料を銅へ変える
2024年3月28日、ムンドラで、今度は金属の製品が客へ出荷された。Adani Enterprises傘下のKutch Copperが、最初の銅のカソードを送り出したのである。電線などの材料へ加工する、高純度の銅の板だった。貨物を扱う港のそばに、その原料から製品を作る事業も置く。[58]
会社が示した最初の段階への投資は、12億ドル(約1891億円)近く。年間50万トンの生産能力を目指し、その後さらに拡張する計画だった。発表日に全体の計画が完成したわけではなく、まず最初の設備が動き、売れる製品を客へ渡す段階だった。[58]
小さなプラスチック工場の原料を探した青年は、外から物を運ぶ商売を広げ、通り道の港を作った。今度は、その場所に金属を作る工場を重ねる。会社の年次報告にも、2024年3月の最初の製品の生産と出荷が記録された。港から発電、工場、販売へ、違う事業の設備を同じ場所で組み合わせていった。[59]
海外へ回っていた荷物を受ける
同年7月、インド南西部・ケララ州の港町Vizhinjamへ、コンテナ船San Fernandoが入った。政府記録で最大9000TEUの能力を持つ船だった。コンテナを小さな船と大型船の間で積み替える、新しい港の節目となった。[60]
国際航路に近く水深も深い場所で、州政府、中央政府、Adani Portsが関わる工事を進めてきた。これまで海外の港へ回っていた荷物を、インド側でも受ける。港を1つ増やすだけでなく、船会社がどこで荷物を積み替えるかという流れへ入る仕事だった。[60]
16調査を誰が続けるのか
2024年のインド最高裁
2024年1月3日、インド最高裁は、Hindenburg報告を受けた調査を、証券規制当局SEBIから別の特別捜査チームなどへ移すよう求める訴えを退けた。24件中22件が終わっており、残る2件も速やかに、できれば3か月以内に終えるよう命じた。[61]
調査する相手を変えるだけの根拠は認められなかった。一方で、調査そのものをやめさせたのでも、すべての取引を一括して適法と決めたのでもない。SEBIが法に従って最後まで進める、という判断だった。空売り側の売買にも違反がなかったか調べるよう求めた。[61]
2025年9月18日、SEBIはAdicorpの取引と、Milestone/Rehvarの取引に関する2つの手続で、対象の違反の主張は立証されなかったとして終結した。調べた貸付取引についての判断であり、2023年に出たすべての疑惑をまとめた結論ではなかった。[62][63][64]
17アメリカの起訴が取引を止める
2024年11月の訴追
2024年、アメリカの検察は、インドの太陽光契約を得るため2億5000万ドル(約394億円)を超す賄賂を支払う計画があり、それを隠して投資家から資金を集めたと主張した。アダニらは、投資家への説明に関する証券詐欺や電信詐欺の訴因で起訴された。会社は疑惑を根拠がないと否定し、法的に対応すると表明した。[65][66]
その影響は、アメリカでの裁判を待たずに海外の事業へ出た。2024年11月、ケニアのルト大統領は、空港拡張の調達手続と送電線の事業を取り消すよう指示した。すでに営業している空港を失ったのではなく、進めようとしていた大型計画が止まった。[67]
株主が次の資金を止める
同月25日、TotalEnergiesは、疑惑と影響が明らかになるまでアダニ関連へ新たな資金を出さないと発表した。自社もAdani Greenそのものも起訴対象ではないと説明しながら、投資時に調査の存在を知らされていなかったとも記した。[68]
成長のために迎えた相手が、自分の投資を守るため、次の拠出を止める。長く一緒に設備を持つ契約があっても、その先の資金まで無条件に約束されているわけではなかった。
コロンボでは、アメリカ政府系の開発金融機関DFCが2023年11月に5億5300万ドル(約871億円)の融資を発表していた。ところが2024年12月、Adani Portsは要請を取り下げ、内部資金と資本管理の計画で進めると説明した。融資の発表が、そのまま全額の実行になったわけではない。[69][70]
資金を変えて船を迎える
2025年4月7日、Colombo West International Terminalは運営を始めた。2022年初めの着工から3年余り。投資規模8億ドル(約1260億円)の現場が、実際に船の荷物を扱う段階へ進んだ。[71]
計画では全長1400メートル、水深20メートル、年間320万TEUを扱う設備を整える。資金の出し方は変わっても、港の工事をやめる判断にはならなかった。Adani Ports、John Keells、現地港湾当局が組んだ35年の仕事が、海辺で動き始めた。[71]
18食用油の相棒とは別れる
台所からインフラへ資金を戻す
2024年末、Adani Enterprisesは、食用油や食品のAdani Wilmarから撤退する契約を発表した。相手は、東南アジアの都市国家シンガポールに本拠を置くWilmar。持分の売却と一般株主の持分を増やす対応を進め、得る資金はエネルギーや物流などの中核事業へ回すとした。[72]
2025年のWilmarの年次報告は、アダニ側が持分を手放したことを記録する。会社名はAWL Agri Businessになった。Fortuneなどの商品名、工場、販売網は残る。アダニの名前が外れた後も、食品は客の台所へ届く。[73]
港や発電所と違う収益源を持っていても、すべてを抱え続ける選択にはならなかった。長く組んだ相手へ渡し、自分たちは別の設備へ資金を向ける。買収を続けてきたグループにも、出口の取引があった。
19クリスマスに最初の客を迎える
午前8時の着陸
2025年12月25日、ムンバイ東側の新都市ナビ・ムンバイに造られた空港へ、南インドのIT都市ベンガルールからIndiGoの旅客機が降りてきた。午前8時。Navi Mumbai International Airportの商業運航が始まる。飛行機へ向けて、水のアーチを作る歓迎の放水が行われた。[74]
アダニ自身も初便の乗客を迎え、空港で働く人々と話した。息子ジートは空港事業の取締役として、この新空港が地域へ2つの空の玄関を持たせると説明する。かつて16歳で1人の働き手として来たムンバイで、彼のグループは、大勢の人が入ってくる場所を運営する側になった。[75]
初期の年間旅客処理能力は2000万人。将来の拡張まで1度に完成させるのではなく、段階を追って広げる空港だった。9月に運航計画を公表したAir India側も、最初の段階を年間2000万人、貨物50万トンと説明していた。完成した建物と、そこへ実際に飛行機を飛ばす会社の計画が合わさって、初日の到着と出発になる。[76]
会社発表によれば、空港の初日には農家の人々や障害のある人たちなどを招いた特別な遊覧飛行もあった。飛行機を使ったことがない人が、自分たちの街を上から見る。一方で、空港を日常の交通へ変えるには、次の日も客を案内し、手荷物を運び、航空会社と運航をつなぐ必要がある。初便を祝う会長の前で、長く続く運営の仕事が始まった。[75]
20終わった訴因と残った手続
2026年8月10日の命令
2026年6月26日、裁判所は、刑事事件全体の棄却を求めたアメリカ司法省に、その理由と裏付けをさらに示すよう命じた。検察が撤退を申し出れば、直ちにすべてが終わる手続ではなかった。[65]
2026年8月10日、裁判所は、ゴータム、サガル・アダニ、ヴニート・ジャインの3人に対する証券詐欺・電信詐欺などの訴因を、同じ訴因で再び訴えられない形で棄却した。事件の実体の是非について意見を示すものではない、とも明記した。[77]
残る5人の被告の訴因は、別の扱いになった。9月3日、裁判所は司法省の棄却請求を退けた。司法省は9月28日、上級審へ、残る訴因を棄却させるための命令を求めた。アダニら3人の訴因を終えたことと、事件全体が同じ結論へ進んだことは一致していなかった。[78][79][80]
検察がやめたい時に裁判官が尋ねたこと
残る5人について、裁判所が9月3日に求めたのは、棄却する理由の具体的な裏付けだった。司法省が示した、捜査や立証の難しさ、インドの関心、今後の逮捕の見通しなどに対し、説明する事実が足りないと判断した。棄却の請求を退ける一方、さらに十分な根拠を出すよう促した。[78]
対する司法省は、9月28日の申立てで、訴追を続けるか決めるのは行政の権限であり、反対のない棄却請求を裁判所がこのように拒むべきでないと主張した。全被告が棄却へ同意していることも挙げる。起訴時の疑惑の是非だけでなく、検察がやめようとする事件を、裁判所がどこまで審査できるかという争いになった。[79]
民事と制裁の金額
刑事とは別に、SECの民事手続がある。2026年5月14日、ゴータム600万ドル(約9億円)、サガル1200万ドル(約18億円)の民事制裁を含む同意判決案が提出された。2人は主張を認めも否定もせず同意し、発表時点では裁判所の承認を条件とした。[81][82]
さらに5月18日、Adani Enterprisesはイラン関連のドル決済をめぐり、制裁当局OFACと2億7500万ドル(約433億円)で潜在的な民事責任について和解した。OFACは、ドバイの業者から買ったLPGがイラン産だったことに気付くべき兆候があり、アメリカの金融機関を通じた決済を生んだと説明した。これは、太陽光の契約をめぐる刑事事件に払った和解金ではない。[83]
グループの名で同じ時期に並ぶ大きな金額にも、当事者と取引はそれぞれ違う。株価の回復だけで、こうした手続がまとめて消えることはなかった。
21医師の前で映画を語る
まだ建っていない病院
2025年、医師の会議で講演したアダニは、好きな映画の1つに『Munnabhai MBBS』を挙げた。医学校を舞台に、人への接し方を描く作品だ。港の規模や貨物ではなく、映画から医療の話へ入った。[84]
同じ講演では、アーメダバードとムンバイから1000床規模の医療・教育キャンパスを始める構想を示した。Mayo Clinicが設計や実施、研究水準などを助言する計画で、完成した病院の実績ではない。貨物や乗客が通る場所を作ってきたグループが、人を治療する場所へも資金を向けようとしていた。[84]
息子の結婚から毎年の支援へ
2025年2月、息子ジートとディーヴァの結婚に合わせ、障害のある女性を支えるAdani Mangal Sevaが始まった。毎年500人を対象に、1人100万ルピー(約165万6000円)の定期預金を用意する計画だった。[85]
2026年2月の会社報告は、初年度500人への支援を記録した。State Bank of Indiaと組み、毎月の収入を受け取り、元本には10年後にアクセスする仕組みと説明している。息子の結婚を祝う日から、翌年も続く支払いへ。次世代が関わる仕事は、港や空港の経営だけではなかった。[85]
2230ギガワットへ続く地面
動いている部分を増やす
2026年3月末、Khavdaで稼働する容量は9.4ギガワットになった。その1年で5.1ギガワットを加えたという会社の報告だ。30ギガワットという全体計画には、まだ工事が残る。[86]
発電機器だけでなく、働く人の住まいや医療設備も用意した。パネルの設置と清掃の自動化を進めながら、工事を続ける人の生活も現場へ持ち込む。ダイヤモンドの選別をしていた少年の事業は、広い土地に設備と人の暮らしをそろえる仕事になった。[86]
同じ2026年3月期、Adani Ports and Special Economic Zoneの売上は3873億6000万ルピー(約6414億円)、荷扱いは5億80万トンに達した。ムンドラの最初の船から、複数の港と物流へ広がった規模だった。[87]
Adani Enterprisesの同年度売上は、投資家向けの現在の比較系列で1兆46億9000万ルピー(約1兆6637億円)。これは、グループ全社の売上を足した額ではない。Forbesの2026年9月の番付は、本人と家族の資産を1127億ドル(約17兆7615億円)と推定した。[88][89]
土地を得ても船は来ない。船が来ても、荷物を外へ運ぶ線路が要る。設備が動いていても、資金を出す相手が説明を信じるとは限らない。アダニの会社は、そのたびに次のつながりを作って大きくなった。塩田にならなかった海辺から始まった仕事は、いまも工事と交渉と、信用を問われる手続の途中にある。
参考文献・出典 89件
本文の番号に対応する資料です。本人・関係者のインタビュー、当時の取材、企業の発表を参照しています。
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- The man who could change India — The Mundra story, LOG.india/R N Bhaskar ↩ 本文
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写真の作者・利用条件・撮影年は各画像の下に記載。取材資料と写真の出典は別々に確認できます。
※ 円換算は2026年11月2日確認のWise表示値(1米ドル=157.6円、1インドルピー=1.656円、1豪ドル=110.8円、1イスラエルシェケル=51.14円)を使用。取引当時の為替や物価・購買力を再現するものではありません。 為替出典:USD / INR / AUD / ILS
本文更新:2026-11-02



