THE STORY
張一鳴の物語
選んだ道。その先で、起きたこと。
01盗まれたパソコンが残した相棒
雪が見たくて北へ行く
1983年、張一鳴は中国南東部・福建省の山あいの街、龍岩に生まれた。父は科学技術に関わる組織で働き、母は看護師だった。やがて父は、中国南部・広東省の製造業の街、東莞で電子製品の加工工場を営む。家には、海外で技術や製品を扱う知人の話が入ってきた。[1]
地理データ:Natural Earth(パブリックドメイン)。 湖の補助データ:© OpenStreetMap contributors(ODbL)。使用データ。現代の地理と都市の代表位置。出生宅・移動経路ではありません。編集部作図。
本を買うための小遣いもあった。小説や雑誌を読み、中学生になると父が株取引に使うパソコンが家へ来る。張少年はWindows 3.1に触れ、プログラムを覚えていった。父の仕事の道具が、息子には、自分で何かを動かせる道具になった。[2]
進学先を選ぶときには、技術だけで決めなかった。実家から離れたい。海鮮を食べたい。雪も見たい。福建で育った張には、北の暮らしそのものが気になった。2001年、その条件を持って中国北部・北京に近い港湾都市、天津の南開大学へ進む。ところが、期待したように海がすぐ近くにあるわけでもない。第1希望の生命科学にも進めず、微電子の専攻に入った。新生活は、思い描いたとおりには始まらなかった。[3][4]
それでも張は、大学で自分の使い方を見つけていく。興味はソフトウェアへ移った。Webサイトを作り、掲示板で人と知り合い、故障したパソコンを直す。誰かが困っていれば、技術を使う用事ができる。後に妻になる人とのつながりも、大学でのこうした交流から生まれた。[3][5]
モニターだけが残った
大学で、パソコンの本体が盗まれた。張の手元にはモニターだけが残った。
そこで梁汝波という友人が本体を買い、その画面につないだ。2人で1台を使うことにする。卒業したらモニターは梁へ譲る。そんな約束も交わした。張はその後、専攻を変えた時点で、卒業を待たずに画面を渡した。[6]
共同創業者の出会いにしては、ずいぶん実用品の話である。1人には画面があり、もう1人には本体がある。足りないものを持ち寄れば、また動かせる。この相手とは、後に中国の首都・北京で会社を作り、世界へ動画を送り、その会社の社長の椅子まで受け渡すことになる。
張は、大学の設備もよく使った。図書館の掲示板へ読みたい本を書けば、購入してもらえる。自分では手を出しにくい洋書の技術書にも届いた。外からプログラムの仕事を受け、月に2000〜3000元(約4万7360円〜7万1040円)以上を得るようにもなる。覚えたことをすぐ仕事に使い、仕事で足りないことをまた調べる。授業の外に、自分で回せる学びができていた。[4]
夜遅く実験室に残る仲間を串焼きに誘い、食べながら話す。その仲間の中から、後に会社へ入る人も現れた。張が開いたプログラミングの競技では、化学系の学生だった李飛が優勝する。ソフトウェアを専攻している学生の外にも、すごい人はいる。その李も、やがてToutiaoの仕事をすることになる。[4][3]
張は、大学で一緒に仕事をする相手を見つけていった。最も長く隣に残る相手は、盗難の後にパソコンを動く状態へ戻してくれた梁だった。
02Microsoftを辞めた理由
仕事の境界を越える
卒業して最初に挑んだのは、企業の共同作業を助けるソフトの事業だった。だが、技術を使って製品を作ることはできても、買う客をつかめない。何を作れるかという話が先へ進み、誰が必要とし、何に代金を払うかが追いつかなかった。[7]
次のKuxunは、飛行機やホテルなど旅行の情報を探す検索サービスだった。まだ小さな会社で、張は自分の担当をサーバー側のプログラムだけに絞らなかった。画面がおかしければそちらへ入り、製品の問題にも、営業が困っていることにも手を出す。仕事が自分のところへ正式に割り当てられるのを待たず、会社で起きている問題を拾った。[7][8]
その職場には、若い技術者が集まっていた。共同創業者の呉世春が振り返った人数では、170人ほどの社員の半分以上が技術者だった。後には多くの起業家がここから出る。張も、依頼された機能を完成させる側から、会社が次に何をすべきかを考える側へ近づいた。[9]
2008年、張はMicrosoftへ移る。ソフトウェアに関心のある若者にとって、これ以上ないような名前だった。ところが、長く勤めなかった。本人が挙げた理由は、待遇の悪さではない。自分には退屈だったのだ。[7]
小さな会社では、担当を越えていくらでも仕事があった。大きな会社へ行けば、同じように動き回れるとは限らない。張はMicrosoftを離れ、SNSのFanfouにも関わり、やがて住宅検索の99fangへ進む。立派な社名を履歴書に増やすより、製品を作って動かす仕事へ戻った。[7]
家が見つかると客が消える
99fangを任せた投資家の王瓊は、初対面の企画書に賭けた人ではなかった。2007年、Kuxunの技術部門で説明を聞いて以来、張の仕事を見ていた。2009年、その彼を住宅検索の責任者に据えた。[10]
技術部門で力を発揮することと、CEOになることは、張の中でも同じ仕事ではなかった。採用するか。何を優先するか。人を辞めさせるか。これまでは意見を持って入れた話でも、今度は自分が最後の答えを出す。決めるたびに、それを引き取る上司はいない。[11]
製品にも、住宅ならではの難しさがあった。良い物件を見つけ、利用者が引っ越す。役に立ったはずなのに、その人は毎日戻ってこない。また次の客を集めなければならない。検索結果を改善しても、住まいを探す頻度までは増やせなかった。99fangは赤字で、アプリだけから収益を得ているわけでもなかった。[12]
一方、手のひらの画面には、毎日戻ってくる理由がいくらでもあった。通勤中に読む記事。ちょっとした暇に見る写真。誰かに送りたくなる笑い話。張の関心は、住宅という1つの用事から、その人が毎日受け取る情報全体へ広がる。スマートフォンが普及し、その画面が生活のあちこちへ入り込んでいた。[11]
ただ、今の事業を置き去りにして次へ飛ぶわけにはいかない。99fangを収益化へ進めるため、張は運営と商業化に強い経営者を探した。自分の後を任せる相手を用意して、新しい事業へ移る。会社を引き渡すという選択を、彼はByteDanceより前に経験していた。[7]
03世界へ届ける前に鍋が止まった
ナプキンに描いた会社
2012年、張は99fangの近くの喫茶店で、王瓊に次の構想を話した。スマートフォンで、その人に合う情報を届ける。手元の紙ナプキンに、製品の形を描いた。
王は出資を決めた。数年にわたって見てきた技術者が、今度は住宅以外の情報へ進もうとしていた。後に振り返ったとき、2人とも、そのナプキンがどこへ行ったか覚えていなかった。会社の最初の構想図は残らず、出資と仕事が残った。[10]
2012年3月、張と梁は北京の4寝室のアパートでByteDanceを始めた。大学で1台のパソコンを共有した2人の周囲に、今度は社員が集まる。[13]
当面の問題は、技術者に入ってもらうことだった。最初の製品は、笑える写真や冗談を集めるアプリ。張が説明する情報の未来と、相手が見る製品の姿が、うまく重ならない。経営幹部や技術者を誘っても、そういうものを作る会社へは入りたくないと断られた。世界へ通用する仕組みを作るつもりでも、目の前の採用候補者は、いま公開しているアプリで会社を判断した。[14]
最初の年末には、皆で火鍋を食べることにした。アパートへ鍋を運び、8つを用意する。ところが、電気を使いすぎてブレーカーが落ちた。結局、動かす鍋を4つに減らした。大勢が使う情報サービスを作っている会社が、自分たちの食事をまとめて温める電力に困った。張は後の周年会で、この出来事を社員へ語っている。[14]
自分で探さなくても記事が来る
同年8月、Toutiao(今日头条)が公開された。ニュースや情報を、利用者に合わせて薦めるアプリだった。何を読むか決めて検索する前に、画面の方が候補を差し出す。張が99fangの後に選んだのは、家を探す時期だけ使うサービスから、毎日開く情報の入口へ進む道だった。[15]
記事を押す。すぐ別のものへ移る。最後まで読む。誰かへ送る。そうした反応を受けて、次に見せるものが変わる。初めに細かな好みを全部設定しなくても、使っている間に画面が利用者へ近づいていく。[16]
張は、自分の好きな情報を全員へ読ませるつもりではなかった。法律を読みたい人も、服を見たい人もいる。それぞれが欲しいものへ届く方がよい。だが、その理想を説明するだけで、アプリを使い続けてもらえるわけでもない。技術者たちは変更を試し、数字を見た。[17]
2014年の取材で見せた比較では、それぞれ78万人の利用者について、推薦の変更前後を調べていた。読む記事は平均0.5本増え、読む時間は20秒あまり延びた。画面のどこかを変えて、それだけ読む人が増える。大きな機能を1度発表して終えるのでなく、使われ方を確かめながら少しずつ変える仕事だった。[1]
最初の広告は食用油
2013年9月、広告を取りに動いていた張利東が、家電量販店の国美の案件を持ってきた。ネットの中で記事を読ませるだけでなく、本物の店へ客を呼ぶ。広告を配る専用の仕組みは、まだ十分にできていなかった。素材と地域の指定を、プログラムへ直接入れた。[18]
店から3キロの範囲へ配る。客は来ない。10キロへ広げると、十数人が来た。さらに対象を広げた。記事を保存し、店で200元(約4,736円)以上買うと食用油をもらえる企画で、来店は100人を超えた。画面の中で起きた反応が、店へ出かける用事になり、買い物になった。張が後に語った最初の広告は、そんな手作業の実験だった。[18][19]
一方、広告を届ける相手は地域だけで選ぶとは限らない。張は、デジタル機器が好きな都市の利用者へ、家庭でネットを使うための機器、ルーターを薦める例も挙げた。誰に見せれば読んでもらえるか。その工夫は記事にも広告にも使えた。広告を売る仕事が、推薦を直す仕事とつながっていく。[16]
04資金の先にあった著作権の壁
アプリが投資家を見つける
会社を始めて間もない2012年末、王瓊の側は追加出資とつなぎの資金を、それぞれ100万ドル(約1億円)ずつ出した。次の大きな資金調達までに製品を育てる必要があった。王が翌春までに20人以上の投資家を紹介しても、納得できる条件には届かなかった。[10]
そのとき、Toutiaoへ1本の記事が流れてきた。投資会社DSTが、似た分野のPrismaticへ出資したというニュースだった。張たちは、そこからDSTのユーリ・ミルナーへ接触する糸口を得る。必要な情報を人へ届けるために作ったアプリが、自分たちに必要な投資家の情報を運んできた。[10]
大企業からは、通常の投資家より高い評価に加え、利用者を送り込む経路やデータを付ける提案もあった。受ければ、勢いよく成長できるかもしれない。それでも張は1週間考え、早くから特定の陣営へ入るのを避けた。大きな会社の支えを得る代わりに、その会社との関係を抱える。張は、その条件を受けず独立を続ける方を選んだ。[4]
広告へ一気に金を使うことにも慎重だった。準備の足りない製品へ利用者を集めても、戻ってきてもらえなければ支出だけが残る。ただし張自身、2012〜2013年には、もっと資金を使えば伸ばせたかもしれないとも認めている。慎重さを常に正解にせず、自分の弱みに先延ばしや遅刻も挙げた。[20]
記事を書いた側が黙っていない
Toutiaoが伸びると、今度は新聞社や書き手が、その画面を見た。もとの記事を作る側が経営に苦しむ一方で、配るアプリへ大きな資金が集まる。2014年6月、1億ドル(約157億円)の資金調達と5億ドル(約788億円)の企業評価が報じられるころ、新京報は著作権の扱いを批判した。[21]
張たちの側は、リンクをつなぐ道具だと反論した。しかし調査に入った国家版权局は、一部の記事や写真について、単に行き先を案内しているのでなく、Toutiao側のサーバーに保存し、配信していたと説明する。同年9月、当局は情報ネットワークを通じて伝える権利の侵害を認め、会社が削除などの是正を進めたことも公表した。[22]
張は批判した媒体へ出向き、権利を購入する方法や広告収入を分ける方法を話した。アプリを開く人が増えても、記事を書いてくれる人が離れれば、読ませるものが減る。技術者として画面を変えるのに加え、権利を持つ相手と条件を作り直した。[1]
書き手向けの頭条号を育てる際にも、人を集める苦労があった。何百人へ声をかけても、応じるのは数人。担当者はWeiboやWeChatで誘い、社員も知り合いの書き手へ声をかけ、参加した人からの質問に答えた。何を読むかを自動で選ぶ会社にも、書いてもらうために1人ずつ連絡する仕事が残っていた。[18]
TシャツとKindleの選び方
張は、製品を見ることにも時間を使った。極客公園が選んだ50の新製品を、中核の製品チームと2日かけて研究する。自社の会議だけで次を決めず、他人の作った画面を触り、何が使いやすくなったのかを確かめた。[23]
日常の選択にも、細かな理由があった。2016年の番組でVanclのTシャツの話になると、愛用していたが、創業者が以前の品質を否定する話をしたため別のブランドへ変えたと説明した。司会者が100枚買ったと話を大きくすると、本人はその数を訂正する。経営者らしい派手な買い物の話には乗らなかった。[5]
読むものは電子版を優先した。2015年には5台目のKindleを使い、親族の子どもへの贈り物にも電子書籍端末と2000元(約4万7360円)分の本の購入資金を考えていた。自分が好きな読書を、別の人が始めるための道具まで用意する案だった。[6]
だが、その張も、次に人々が使う画面をすぐには見抜けなかった。ニュースの次に来た短い動画へ、彼らは2度、踏み出すのを見送っていた。
05撮ってみたら社長も苦戦した
沖縄で決められなかったこと
2014年、オフィス近くの地下鉄駅に、Tencentの動画アプリWeishiの広告が出ていた。競争相手は、すでに短い動画へ金を使っている。張のチームも、その分野へ入るか考えた。しかし、動かなかった。[24]
翌2015年には、社員旅行で訪れた沖縄の居酒屋で、また動画の話になった。日本南西部の島々からなる沖縄で、会社の次の製品を話す。そこでも参入へ踏み切れなかった。後から見ればTikTokの前史となるこの時間にも、何を作るべきか迷う会議があった。[24]
張が新しい製品を考えるとき、他社を見に行くことは以前からしていた。2014年に訪ねたアメリカ西部・カリフォルニア州の、テクノロジー企業が集まるシリコンバレーでは、TwitterのDick Costoloに140文字という制約を守る理由を聞いた。Yahoo創業者のジェリー・ヤンとはAlibabaへの投資を話し、Airbnbでは家を持たなくても多くの住まいを利用できる発想に触れた。相手の成功を聞いて終わらず、製品の中にある選択を知ろうとした。[25]
それでも、自社で次を始める決断には時間がかかった。動画では、見たいものを届けるだけでなく、利用者が自分で撮り、投稿する。その入口から用意しなければならない。文章を読ませるアプリでうまくいった方法を、どこまで持ち込めるのか。実際に製品を出し、自分たちが撮る側へ回って、初めて見える問題もあった。
いいねが足りなければ腕立て
2016年、国内向けのDouyinが登場した。[26]
2017年には、海外向けのTikTokが始まる。中国と海外で、それぞれの利用者へ向けた製品を育てた。[26][27]
張は当初、Douyinを若者のものと思い、自分では見ても撮っていなかった。ところが、ただ利用状況を報告される側から、自分でも投稿する側へ移る。経営陣にも動画を撮るよう求め、「いいね」が決めた数に届かなければ腕立てをするルールを作った。[28]
指示する側がカメラの前へ立つ。撮ったものを見てもらえるか。反応は来るか。経営会議で製品を評価する側にいた張も、自分の作品への反応を待つ利用者になった。動画を作り、「いいね」を集める仕事を、幹部たちも体験した。[28]
海外担当者とは、各国の利用者が投稿した動画を見るグループも作った。ブラジルやベトナムでは、何を撮り、何を面白がるのか。毎日の動画を一緒に見る。国ごとの数字を見るのに加え、その数字を作る人の暮らしが、画面から入ってくるようになった。[28]
旧正月はロサンゼルスへ
海外へ出るには、自分たちで製品を公開するだけでなく、すでに使われているアプリを買う方法もあった。2017年、ByteDanceはアメリカ西海岸の映像・娯楽産業の中心地、ロサンゼルスに拠点を置くFlipagramを取得する。写真や動画を音楽に合わせて短い作品にできるアプリだった。大手音楽会社や音楽出版社と利用許諾の契約を持っていた。[29]
作品はある。それを次に誰へ見せるか。ニュースで育てた推薦の技術を、今度は音楽付きの映像へ使う。現地のチームと一緒に、その仕事を進めることになった。張も旧正月に現地へ向かい、統合に動いた。[29][18]
張は、自分の英語がたどたどしいと報道されたことを後に講演で振り返った。海外の相手へ説明するため、自分でも英語の本を読み、商談で使い、歌詞を覚えて練習した。世界へ進む方針を掲げた後も、本人が聞いて話す勉強は残った。[18][24]
ByteDanceは同年、Live.meへの5000万ドル(約78億円)の投資契約も結んだ。その場で視聴者とやり取りするライブ配信のサービスで、Cheetah Mobileが育ててきた事業だった。ByteDanceの海外製品へ、Live.meが優先して配信サービスを提供する関係も発表された。録画した短い作品に、生配信の機能と現地の相手が加わる。[30]
さらにNews Republicやmusical.lyの売却も、その年の第4四半期に完了したとCheetah Mobileは開示した。ニュース、音楽、動画、ライブ。張の会社は、違う形で人が集まる画面を次々と手に入れていた。[31]
06消されたアプリと世界へ出る動画
拡大の最中に届いた停止命令
2018年3月、張は清華大学の対話で、プラットフォームの社会的な責任について話した。多くの人が利用する場は、公共の基盤に近い役割を持つ。推薦の技術を磨く会社は、その情報が社会へ与える影響も引き受ける立場に近づいていた。[15]
その翌月、自社の画面が止まる。4月、笑いや娯楽を扱う内涵段子が、当局の命令で永久停止になった。サービスを成長させるために集めた人も投稿も、運営を続けられなければ利用者へ届かない。張は謝罪文を出した。成長や規模を重視する一方で、責任や品質への対応が足りなかったと認め、審査を担う人員の拡大などを約束した。[32]
使う人を増やすための実験なら、これまで何度もやってきた。広告の範囲を広げ、反応を測り、推薦を変える。今度の相手は、そうした改善を待ってくれる利用者ではなかった。中国で何を配信してよいか、その管理をどうするかという問題が、サービスの存続そのものを決めた。
馬化騰との応酬
翌5月、今度は競争相手とぶつかった。TikTokのダウンロード実績をSNSで祝った張は、WeChatによる締め出しや、動画アプリWeishiの模倣を批判した。WeChatもWeishiも、Tencentの製品である。[33]
Tencentを率いる馬化騰が、その投稿に応じた。名誉を傷つける話だと反発する。Tencent側は、短い動画のリンクの扱いは各社共通で、転載や侵害を奨励しているわけではないと説明した。普段なら広報担当者を通して伝わるような対立が、経営者どうしのやり取りとして表へ出た。[33]
張は、自社の広報担当からも発言を注意されたと明かしている。自分たちが動画を育てても、それを共有する先に競争相手の大きなサービスがある。利用者が送ったリンクをどう扱われるかで、伸び方が変わる。その入口をめぐって、独立を守ってきた会社と、すでに入口を持つ大企業が争った。[33]
張は前年末の取材では、TencentやAlibabaなどの傘下へ入らず独立したいと説明していた。一方、自分の強気な発言として広まった言葉には、それは自分の発言ではないと否定もしている。独立を選んだ意思は伝えても、誰かが作った強気な台詞は訂正した。[34]
1つのアプリへ引き継ぐ
同年8月、musical.lyとTikTokが統合された。音楽に合わせて短い作品を作っていた人々が、新しいTikTokへ移る。先に集まっていた利用者と作品を、新しい機能や推薦につないだ。[35]
Douyinの国内向けの表情も広がっていた。2018年の年会には、台所用品を使って歌手になりきる父子が招かれる。責任者の張楠は映像と音声の質を重視し、配信にも金を使っていた。若者が格好よく踊る画面だけでなく、身近な家族の遊びも人を引きつけた。3月には「记录美好生活」という、暮らしを記録する言葉を掲げていた。[36]
見る人が、次には撮る人になる。友達だけに見せたつもりの作品が、まだ知らない人へ薦められる。会社が用意するのは大きな撮影所ではなく、個々の人の動画が見つかる画面だった。その力が強くなるほど、未成年の利用者も含め、誰の情報をどこまで扱うかが問題になっていく。
子どもの動画を消してほしい
2019年2月、musical.lyの運営会社は、子どもの個人情報の収集をめぐる米連邦取引委員会、FTCの主張を解決するため、570万ドル(約8億円)を支払うことに同意した。問われたのは、大人が知らない間に子どもの名前やメールアドレスなどが集まり、親が削除を求めても、その情報が会社に残る問題だった。[37][38]
当局の訴状では、親から数千件の苦情が届いていた。2016年9月の約2週間だけでも、子どものアカウントを閉じてほしいという要望は300件を超す。会社はアカウントを閉じても、動画やプロフィールの情報はサーバーから消していなかったとされた。気軽に歌い、投稿できる入口の先で、親が止めたいと思った後の出口が足りていなかった。[39]
TikTokは和解に合わせ、アメリカの若い利用者を、制限と追加の保護を設けた別の利用体験へ分けると発表した。人を集めたサービスを買い取れば、その人々を守る運営も引き受ける。musical.lyをTikTokへ統合した仕事は、アカウントの名前を変えるところでは終わらなかった。[40]
07初心を忘れた募集要項
その採用条件では社長も落ちる
会社が伸びると、募集する人の条件も立派になっていった。製品担当者には経験5年以上。1日に1000万人が使う製品を扱った経験。そんな条件が並ぶ。
張は、それなら自分も採れなかったと指摘した。実際に製品を育ててきた陳林も、張楠も、入社時点ではその条件を満たさない。ByteDanceは、まだ大きな製品を任されたことのない人へ仕事を渡し、その人と一緒に育ってきた。大企業になった途端、成功済みの経歴しか見なくなれば、自分たちをここまで連れてきた人まで落としてしまう。[18]
製品が増え、国が増えれば、社員が同じ資料を見て話すだけでも手間が増す。文書を別の場所へ送り、予定を確認し、会議を始める。1つの会社で働いていても、使う道具と画面が分かれていれば、やり取りが行き来する。その仕事をまとめる製品も、ByteDanceの事業になった。
娯楽の次は同僚の仕事
2019年、公開したのがLarkだった。チャット、予定表、文書、オンライン会議などを集めた業務向けの道具である。会社の中で必要になった共同作業の仕組みを、ほかの企業へも売る。撮った動画を次々見る客とは別に、同じ書類を直す同僚たちを相手にする事業が始まった。[41]
2020年、日本でも無料提供を発表した。当初は50人までのビデオ会議、企業あたり200GBの保存領域、5000人までのグループチャットなどを用意した。感染症が広がり、いつもの部屋で働けなくなった会社に、離れて連絡を取り続ける道具を届ける。[42]
大学の頃は、同じ場所のパソコンを一緒に使えばよかった。北京のアパートでも、隣にいる相手へ話せた。今は、違う国の社員が、違う時刻に同じ仕事を動かす。張の会社が世界へ出たことで増えた不便が、そのまま次の商品になっていた。
ただ、世界へ仕事を広げるために組織を整えても、世界の側が同じように受け入れるとは限らなかった。2020年、会社が各国で積み上げてきた仕事に、各国の制約が一斉に迫ってくる。
082億人の画面が止まった夏
上映中止の新作を配信する
2020年1月、中国では春節の映画公開が取りやめになる。人が大勢で映画館へ来るはずだった時期に、感染症が広がった。家で過ごす観客へ、どう作品を届けるか。
Huanxi Mediaは1月23日、ByteDanceと動画分野の提携契約を結んだ。含まれていたのが、新作映画『囧妈』(Lost in Russia)を1月25日からオンラインで配信する権利だった。ByteDanceが支払う提携全体の最低対価は6億3000万元(約149億円)。作品の配信に加えた複数の協力を含む契約である。[43]
ニュースや短い動画を見るために使われてきた画面へ、新作の長編映画が届く。家を出られない観客がいる。上映できなくなった作品がある。両者をつなぐため、ByteDanceはまとまった金と配信の場を出した。2013年に家電店の食用油で集客を試していた会社は、今や映画の観客が集まる場所そのものを動かしていた。
迎えたばかりの世界事業トップ
5月、張はKevin MayerをByteDanceのCOOとTikTokのCEOに迎えると発表した。Disney+やHulu、ESPN+などを率いてきた経営者だった。6月1日から張へ直接報告し、TikTokに加えて音楽やゲームなどの国際展開も担う。[44]
営業だけでなく、法務、安全対策、投稿の管理も任せる。推薦を磨く技術チームへ、世界で娯楽事業を動かしてきた経験を加える人選だった。TikTokを、世界的な企業として運営する体制に進める。そのために迎えた人の仕事は、始まってすぐに変わってしまう。
6月29日、インド政府はTikTokを含む59アプリのアクセスを遮断すると発表した。理由として挙げたのは国家の安全、主権、データへの懸念だった。[45]
TikTokが当時示していたインドの利用者は2億人以上。社員も2000人以上いた。Mayerは7月、社員へ手紙を出し、現地の法を守ってきたと説明して、復帰へ力を尽くすと約束する。何年もかけて集めた利用者へ、動画を届けられなくなる。数字を改善する会議を開いても、その画面を使ってもらう前提が消えていた。[46]
かつて辞めた会社が買いに来る
アメリカでも、事業の存続をめぐる交渉が動いた。7月には米国TikTokが、作り手を支える2億ドル(約315億円)のCreator Fundを発表していた。18歳以上で一定の条件を満たす投稿者へ、活動を続けるための収益を用意する。その約束を出すのと同じ夏に、サービスをどの会社が持つかが問われた。[47]
8月2日、買い手候補のMicrosoftが、取得の協議を続けると公表する。対象として挙げたのはアメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの事業。アメリカの利用者のデータを国内へ移し、ほかの場所にある複製を削除する案も示した。[48]
2008年、張はその会社を退屈だと感じて離れた。今度は、自分が育てた製品を買う候補として、そのMicrosoftが現れた。本人が知る巨大ソフト会社と話せば終わる交渉でもなかった。Reutersの取材では、200億ドル(約3兆1520億円)を超す提案に対して、ByteDanceの投資家は十分な価値を得られるか懸念していた。中国側は推薦技術の輸出に関わる規則を改めた。アメリカ側の要求に応じて事業を売ろうとすれば、中国側の許可と株主の利害が問題になった。[49]
中国国内からは、アメリカに屈服したという批判まで出た。張は社員に、短期的な評価へ振り回されず、正しい仕事を続けようと手紙を書いた。売らなければ続けられないと言われ、売ろうとすれば批判される。製品を外へ広げた創業者は、その製品を手元へどこまで残せるかという交渉に入っていた。[50]
就任から3か月で去る
8月末、Mayerが辞任した。世界全体を率いるはずだった仕事は、政治環境の変化で当初の姿から変わっていた。6月に本格始動したばかりの経営者が、3か月足らずで去る。張が世界事業のために連れてきた相手を失ったのは、その世界事業が揺れている最中だった。[51][52]
9月、Microsoftの提案は断られた。ByteDanceはOracleとの提携案へ進んだ。技術企業へ事業をまとめて渡す代わりに、出資やデータの管理を組み合わせる案が浮かぶ。Walmartも、新会社TikTok Globalへの7.5%出資と、通販、配送、支払いなどの協力について暫定合意を発表した。[49][53]
その時点では、なお最終契約へ向けた作業が残った。交渉相手も、譲る範囲も、データを扱う方法も、次々に組み替わっていた。この2020年の案が、そのまま完成した会社として動き出したわけではない。アメリカで事業を続ける枠組みの問題は、その後も残り続ける。
09動画の会社が学習机へ向かう
子どもの手元にランプを置く
2020年10月、ByteDanceは教育事業をDali Educationというブランドへまとめた。責任者は陳林。英語の個人指導、学校の授業を補うオンライン講座、子ども向けの学習などを集め、1万人を超す人が関わっていた。張は教育を、新しく力を入れる分野に挙げていた。[54]
発表会には、学習用の卓上ランプも出てくる。カメラを備え、子どもが単語を指せば意味を調べられる。問題の説明を聞き、離れた親が机の様子を見て話すこともできた。動画を見るスマートフォンの中から、子どもが毎日座る机の上へ。製品を置く場所まで変えようとしていた。[54]
張は大学の頃、読みたい技術書を図書館に頼み、手を動かして覚えてきた。今度はその学びの側へ、会社として人と資金を集める。広告で大勢へ情報を届けてきた力があれば、学ぶ人にも届けられる。その先で何を教え、誰が金を払うかは、これから事業の中で確かめることになる。
娯楽の動画なら、面白ければ次の1本を見る。教育を買う親は、子どもの変化を期待して申し込む。使う人、選ぶ人、代金を払う人が同じとは限らない。張は、それでも長く取り組む姿勢を示した。教育分野は、ByteDanceが次の成長を探す大きな場所になった。[54]
このとき集まった1万人を超す人と製品は、わずか1年後、事業を続ける前提から変えられることになる。その前に、張自身が日々の経営から離れるという知らせが届いた。
10社長も自分の動画をやめられない
夜更かしする創業者
2021年3月、張は社員の前で、夜の自分の過ごし方を話した。仕事をするつもりだったのに、Xigua Videoで面白いものを見つけ、見続けてしまう。寝る前になって後悔する。そこで仕事を取り返そうとすると、寝るのが遅くなる。翌日の会議では調子が悪い。[8]
人が次の動画を見たくなる仕組みを作った本人も、その1人だった。使う時間を数字として知っているだけでなく、思うように切り上げられない夜を過ごす。社員へ立派な生活習慣を教える前に、自分の失敗を出した。
同じ講演で、張は社内の資料に並ぶ難しい言葉を読み上げた。意味がありそうでも、何をするのかが伝わらない。会社が育ち、幹部らしく説明することに慣れるほど、分からないことを聞きにくくもなる。張は利用者へ直接話を聞く様子を示し、同僚と各地を回った仕事へ目を戻した。[8]
Kuxunで、担当外の問題にも入っていった若い技術者は、巨大な会社で同じ姿勢を続ける難しさを話していた。目の前の報告と承認を次々にこなす席に、自分はどこまで向いているのか。2か月後、その仕事を別の人へ渡すと発表する。
モニターを渡した相手へ
2021年5月、張はByteDanceのCEOを梁汝波へ引き継ぐ方針を示した。大学で本体を買い、盗難の後に残った張のモニターとつないだ友人である。卒業前に画面を譲った相手へ、今度は日々の会社を率いる役割を渡す。[55][6]
張は書簡で、自分は理想的な経営者に必要な能力を全て備えているわけではないと説明した。人を直接管理するより、組織や市場の仕組みを考えることに関心がある。読書や音楽、1人で未来を思い描く時間を好む。今後は長期の戦略、組織文化、社会的責任へ仕事を移すと伝えた。[55][56]
書簡には、技術者としての切実な遅れも書いた。2017年より前は追えていた機械学習の進歩に、近年は十分についていけない。専門の動画や記事を保存しても、読むのは途切れ途切れ。技術の議論でも追いつくのが難しくなった。毎日の報告を聞き、承認し、判断する間に、以前は自分で学べていたことが手を離れていた。[56]
製品を育てるために会社を作り、その会社が大きくなると、製品の先を考える時間が削られる。張はCEOの仕事を増やし続ける代わりに、役割を変える方を選んだ。後任には、大学以来、隣で仕事をしてきた梁を選んだ。
故郷へ戻す5億元(約118億円)
同年6月、故郷の龍岩では、張が5億元(約118億円)を寄付して芳梅教育発展基金を作ったことが公表された。名前には、祖母と母方の祖母の名を使った。全国や世界へ使う人を増やして得た富の一部が、自分を育てた地域の教育へ向かった。[57]
一方、会社の教育事業には別の変化が迫っていた。夏、中国で学校の主要教科の民間補習事業に厳しい規制が導入される。前年に長く取り組むと打ち出した分野で、同じ収益の取り方を続ける前提が崩れた。ByteDanceも、教える人、営業、広告を担う人を減らし、一部の製品を終える方針を社員へ伝えたとReutersが報じた。[58]
11月の再編では、教育を全て終えるのでなく、AIを使った学習、成人教育、学習機器などへ重点を移すと説明した。集めた人と作った製品を、次にどこへ向けるか。CEOを引き継ぐ梁は、その調整も抱えることになった。[59]
11記者の情報をのぞいた社員たち
漏洩を調べるためのアクセス
2022年12月、ByteDanceは、従業員が記者2人のユーザーデータへ不適切にアクセスしたと認めた。会社の内部情報がどこから漏れたかを調べる過程で起きた問題だった。関わった従業員は会社を離れたと説明した。[60]
記事を読んだ反応から、その人に合うものを薦める。動画を見た動きから、次の1本を選ぶ。ByteDanceは、利用者の反応を使って製品を育ててきた。今度は、会社の内側で、その情報を見る目的が問われた。
報道する側は会社について調べる。その会社の社員が、情報漏洩の調査で記者のデータへ入る。利用者の便利さを高めるために持っていた情報が、利用者自身の望まない調べものへ使われた。アメリカでデータの管理をめぐる懸念が続く中、自社の説明を弱める出来事だった。[60]
張から梁へ経営が移った後も、会社のデータ管理は、アメリカで事業を続けるための大きな課題になっていた。
12店とゲームと大学へ広がる
動画の中から商品を買う
2023年9月、アメリカでTikTok Shopが本格的に始まった。動画で紹介された商品を押し、そのまま買える。企業のプロフィールに商品を並べ、ライブ配信で売る。作り手が商品を紹介し、購入につながれば手数料を得る道もできた。[61]
ニュースを読んでもらい、広告から店へ出かけてもらう。かつては、その間に移動も別の買い物もあった。今度は、見て気になったところから、同じアプリの中で注文まで進む。利用者が画面を離れる前に、商品へつなぐ仕組みだった。
売り手の荷物を預かり、梱包して送るサービスも加わる。面白い動画を見つけてもらえば終わる仕事から、注文したものを実際に届ける仕事へ踏み込んだ。購入後の問い合わせや返品もある。会社が受け取る代金の先には、動画を配るだけでは動かない仕事が増えた。[61]
Nuverseを縮める
広げた事業の全てが、そのまま次の柱には育たなかった。同年11月、ByteDanceはゲーム事業の再編を認める。Reutersは、Nuverseで未公開の作品の開発を止め、公開した作品でも保有を見直す方針を報じた。[62]
多くの利用者へゲームを知らせる道は持っている。だが、長く遊び、お金を払いたくなる作品を作るには、別の競争があった。ニュースや短い動画で得た強みを持ち込んでも、作った作品が思うように育つとは限らない。会社は、その分野へ置いた資源を見直した。
一方、気軽に遊ぶゲームを手掛けるOhayooなどは、影響を受けないと報じられた。全てのゲームを同時に捨てる決定ではなく、続けるところと縮めるところを選ぶ再編だった。[62]
2人で学んだ大学へ2億元(約47億円)
2024年、張と梁は、南開大学へ共同で2億元(約47億円)を寄付した。数学の研究と人材育成を支えるための資金だった。大学で持ち寄ったのは本体とモニター。その2人が、今度は同じ大学へ大きな資金を戻した。[63]
張がCEOを退いた後も、梁と重なる仕事は残った。会社を作る相棒から、役割を受け渡す相手へ。そして、学んだ場所を支える共同の寄付者へ。大きな買収や国際交渉の間にも、この長い関係は切れずに続いていた。
13次に薦めるだけでなく作る
Doubaoを企業にも売る
2024年5月、ByteDanceのクラウド事業Volcano Engineは、北京でDoubaoの大規模AIモデル群を公開した。文章を理解し、要約し、答えを作るものに加え、声や画像を扱うモデルもそろえた。Toutiaoで他人が書いた記事を選び、TikTokで他人が撮った動画を選んできた会社が、今度は内容を生成する道具を売る。[64]
企業向けに示した主力モデルの入力価格は、1000トークンあたり0.0008元(約1円未満)だった。トークンは文章をAIが処理する単位で、発表では1500字あまりの漢字を扱える規模と説明した。会社が大量の文章を毎日処理しようとすれば、1回の小さな費用も積み重なる。Volcano Engineは、性能だけでなく、その費用を下げることで利用を広げようとした。[64]
発表によれば、自社内でも50を超える事業がすでにこのモデルを使っていた。会社の中で使い、問題を確かめ、外の企業へも提供する。Larkで共同作業の道具を事業にした後、同じ企業群の中へ、AIのサービスが加わった。[64]
張が2021年にCEOを渡す書簡で気にしていたのは、目の前の経営に追われ、機械学習の進歩を追う時間がなくなることだった。その数年後、梁の率いる会社は、その技術を次の大きな製品群へ変え始めていた。[56][64]
14アメリカの画面が一晩消える
期限は大統領就任の前日
2025年1月17日、アメリカの連邦最高裁は、TikTok側による法律への異議を退けた。中国側の支配から切り離す条件を満たさなければ、同19日から、アメリカの事業者がアプリの配布や維持、更新などを支えるサービスを提供できなくなる。利用者が好きな動画を投稿する場を、どの企業が支え続けてよいかが問われた裁判だった。[65]
会社と利用者側は、表現の自由への負担を訴えた。最高裁は、データ収集と外国の支配をめぐる安全保障上の懸念を根拠に、争われた規定は憲法修正第1条に反しないと結論づけた。張がアパートで始めた会社の米国事業は、創業者が社員へ方針を伝えるだけでは守れない段階へ進んでいた。[65]
TikTok側は、サービスを支える企業が、法律を執行されないという明確な保証を得られなければ、19日に停止せざるをえないと表明する。会員が何人いても、会社の外で配布や設備を支える相手が動けなければ、動画は利用者へ届かない。期限は、新しい大統領が就任する1日前に迫っていた。[66]
停止から復帰へ
アメリカでは18日夜にサービスが止まり、19日には復旧へ動いた。TikTok側は、次期大統領トランプから事業者への保証が示されたと説明した。2020年には売却を迫った政権の大統領が、今度は継続のための猶予を与える側になる。5年前の交渉を知る会社に、同じ名前が違う役回りで現れた。[67][68]
20日、就任したトランプは、司法長官へ法律の執行を75日間見送るよう命じた。配布や維持を支える企業へも、その期間について制裁を科さないよう指示する。利用者の画面は戻っても、法律そのものが消えたわけではなかった。会社には、猶予の先で認められる運営の形を決める仕事が残る。[69]
2020年にも、事業を売る案、データを預ける案、新会社へ出資してもらう案が行き来していた。翌年も同じ会社として世界を広げられるとは限らない。その不確実さを、今度はアメリカの利用者も、見られない画面として経験した。[67][53]
15アメリカで続けるため会社を分ける
米国の管理を担う合弁会社
2026年1月、TikTok USDS Joint Ventureの成立が発表された。2020年に検討された売却案から、何年もたった後だった。ByteDanceの持分は19.9%。Oracle、Silver Lake、MGXが、それぞれ15%を持った。[70]

写真:Coolcaesar/出典/CC BY 4.0。表示用縮小。写り込む商標の権利は各権利者に帰属。
この比率は、アメリカで利用者のデータやアプリ、推薦の仕組みを管理する合弁会社の持分を示す。米国向けのデータ保護と安全管理を、誰が担うかを組織と持分で変えた。[70]
CEOにはAdam Presserが就き、安全を専門に担う責任者も置かれた。対象にはTikTokに加え、動画編集のCapCutや、画像と文章を投稿するLemon8なども入る。一方、世界の製品との接続や、広告、通販などの商業活動を担う米国の法人もあり、各国の作り手や利用者がつながる仕組みも維持した。[70]
見る人の画面では、次の動画が続いていく。その背後では、同じ製品を運営する組織が分かれ、株主が入り、データと推薦に責任を持つ相手が変わった。張が大学で友人と1台のパソコンを使っていた頃には、2人で決められたことだった。今、その会社がアメリカで事業を続けるには、複数の投資家や企業、制度にまたがる形が必要になっていた。
過去の運営への4億ドル(約630億円)
同年8月、アメリカでは、子どものプライバシーをめぐる2024年提訴の訴訟で、4億ドル(約630億円)の和解が発表された。3億ドル(約472億円)を直ちに支払い、残り1億ドル(約157億円)は既存の同意判決を撤回する命令が出ることを条件に支払う枠組みだった。疑惑を解決するための和解で、責任の有無について司法判断が出たものではない。[71]
2019年のmusical.lyの和解で終わった話ではなかった。サービスが大きくなり、運営の形を変えた後も、以前にどう個人情報を扱ったかという問題が続いた。新しい動画を出す仕事と、過去の運営に向き合う仕事が、同じ会社の中に残っていた。
16次の画面を考える時間
2000億ドル(約31兆5200億円)規模へ
ByteDanceの2025年売上は、2000億ドル(約31兆5200億円)規模と報じられた。非上場企業の報道値ではあるが、北京のアパートで始めた会社が到達した事業の大きさを示す。[72]

写真:N509FZ/出典/CC BY-SA 4.0。表示用縮小。
会社には、Toutiao、Douyin、TikTokだけでなく、Lark、AI関連のDoubaoやVolcano Engineなども並ぶ。住宅を探す技術者が始めた仕事は、読むもの、見るもの、買うもの、同僚と働く道具へ広がった。[13]

写真:XIAOTINGWANG/出典/CC BY-SA 4.0。表示用縮小。
張は2021年に役割を変え、梁へ日々の経営を渡している。後任の仕事と社員たちの成果が、彼の作った会社の次の姿を作っている。
張には、待ったことで守れたものがあり、待ちすぎて逃しかけた機会もあった。大企業の出資を断り、動画への参入は2度見送り、始めてからは自分でも投稿した。大きな画面を作るほど、国が止める問題や、情報の扱いへの責任も引き受けた。[4][24][28][32]
夜に動画を見続け、翌日の調子を崩す。自分の会社の募集条件に、自分なら落ちると指摘する。膨大な利用者の行動を扱う男は、自分の行動を思うように管理できないことも隠さなかった。[8][18]
大学でモニターが残ったときは、梁の本体とつなげば、また使えた。ByteDanceでは、2人の周りに大勢の人と仕事が集まった。張はその経営を友人へ渡し、もっと先を考える側へ移った。かつて毎日使いたくなる情報の入口を探した男の会社は、今日も世界の人々の手の中で、次の1本を選んでいる。
参考文献・出典 72件
本文の番号に対応する資料です。本人・関係者のインタビュー、当時の取材、企業の発表を参照しています。
- 程序猿张一鸣,用极客思维做新闻 ↩ 本文
- Why America Is Afraid of TikTok ↩ 本文
- 张一鸣在南开大学2016级新生开学典礼上的讲话 ↩ 本文
- 张一鸣:意料之外的大学生活和创业心路 ↩ 本文
- 央视对话 张一鸣 ↩ 本文
- 张一鸣的“上帝视角” ↩ 本文
- 张一鸣自述:因为刺激,所以创业 ↩ 本文
- Zhang9thanniversary2021speech fullreprint ↩ 本文
- 解码酷讯创业者现象《上集》:张一鸣们的创业黄埔军校 ↩ 本文
- 海納亞洲董事長王瓊自述:為何投資今日頭條? ↩ 本文
- 张一鸣对话钱颖一 上 ↩ 本文
- 今日头条创始人张一鸣:创业以来始终都有危机感 ↩ 本文
- ByteDance About Us / Founders ↩ 本文
- Zhang2016anniversary speech fullreprint; samework asToutiao6261181592010490370 ↩ 本文
- 钱颖一教授对话张一鸣 ↩ 本文
- 【奇点大会】张一鸣:信息的今天与广告的未来 ↩ 本文
- CCTV WangXiaoya interview2014-08-27 ↩ 本文
- 字节跳动七周年,张一鸣谈「务实的浪漫」:把想象变成现实 ↩ 本文
- 張一鳴2019年7周年講演の転載:放大格局,放小自己 ↩ 本文
- 今日头条创始人回应低俗质疑 ↩ 本文
- ThePaper originalreport onToutiaocopyrightdispute2014-06-05 ↩ 本文
- People.com directreport ofcopyrightauthority statement2014-09-16 ↩ 本文
- 张鹏:什么是王兴、张一鸣们「超速成长」的源代码? ↩ 本文
- Daybreak/ZhaiWenting originalreport reprintedJiemian2020: videochoice/Englishlearning ↩ 本文
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- Justice Department Secures $400M Settlement ↩ 本文
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写真の作者・利用条件・撮影年は各画像の下に記載。取材資料と写真の出典は別々に確認できます。
※ 円換算は2026年11月2日確認のWise表示値(1米ドル=157.6円、1人民元=23.68円)を使用。取引当時の為替や物価・購買力を再現するものではありません。 為替出典:USD / CNY
本文更新:2026-11-02



